定年祝いの草津旅行、幸せな時間を壊した“一枚の紙”
鈴木健一さん(仮名/65歳)は、地方の中小企業で40年以上働き、この春無事に定年を迎えました。妻・由美子さん(仮名/63歳)とは結婚して35年。二人の子どもはすでに独立し、夫婦水入らずの生活です。
共働きだった二人は、昔から「お互いのお金には口を出さない」という考え方でした。住宅ローンや教育費は協力して支払い、食費や光熱費なども役割を決めて負担し合ってきたのです。そのため、それぞれの給与口座や貯蓄額までは細かく確認せずにいました。ちなみに、健一さんの退職金は約2,000万円です。
長年勤めた会社を退職した健一さんを労いに、夫婦は草津温泉へ二泊三日の旅行に出かけました。露天風呂に入り、美味しい料理を味わい、部屋で地酒を飲みながら思い出話や子どもたち、孫たちの話に花を咲かせます。
まさに理想的な第二の人生のスタートでした。
ところが帰り道、立ち寄ったコンビニの駐車場で、助手席に落ちていた一枚の紙が、夫婦の未来を大きく変えることになります。
妻が隠し続けた「800万円」
助手席に落ちていたのは、なにかの利用明細でした。落ちた紙を何気なく拾い上げた健一さんは、そこに書かれた文字に違和感を覚えます。
「利用額」「返済額」「借入残高」——。どうやらキャッシングの明細のようで、利用限度額である80万円の上限まで使い切られていました。
「これ、どういうこと?」
車を運転しながら妻へ尋ねると、由美子さんはしばらく黙り込んだあと、小さな声で打ち明けました。
「……ごめんなさい」
妻は数年前からアイドルのライブやグッズ集め、遠征など、いわゆる「推し活」に夢中になっていました。最初はボーナスや給与の範囲で楽しんでいたそうですが、限定グッズや全国ツアーが続き、カード払いが増加。支払いが苦しくなり、カードローンを利用しはじめたことがきっかけだったといいます。
クレジットカードのリボ払いを利用し、返済資金が足りなくなるとキャッシングで補う生活へ。1枚のカードで利用限度額に達すると、また別のカード会社から借り入れを繰り返し、自転車操業に陥っていました。そんな状態を3年以上も続けた結果、気が付けば借入総額は約800万円、金利は年18%という高金利まで膨らんでいたそうです。
そんな状態になると、借金は返しても返しても元金がほとんど減りません。
「いまさらそんなのありかよ……」と健一さんは妻を責めずにはいられませんでした。確かに妻がアイドルの遠征に行ったり、グッズを買ったりしていることは当然健一さんも知っていました。ですがそれほどお金が掛かることとは知らず、「当然、自分の収入の範囲内でやっていること」と思っていたのです。
結局、健一さんの退職金から借金を一括返済することに。生活資金として積み立ててきた預貯金が別に1,000万円以上あったため、老後資金そのものが底をつく事態は免れたものの、それ以上に夫婦の信頼関係は大きく揺らぎました。
その日を境に、「このままだとまたいつ借金を重ねるかわからん」と、クレジットカードや家計の管理は健一さんが行うことになりました。

