2022年4月1日より、大企業・中小企業を問わず、企業のハラスメント対策が法律で義務化されました。社会のコンプライアンス意識は劇的に向上した一方で、適切な指導とハラスメントの境界があいまいになり、現場からは「部下のミスを注意できない」「雑談するのが怖い」といった声を耳にするように。さらに、部下から上司への「逆パワハラ問題」も注目を集めるようになりました。ハラスメントを恐れて部下に必要な指導ができなくなってしまった上司の事例を通して、個人の配慮に依存しない具体的なコミュニケーションの仕組みをつくる方法を専門家とともに探ります。

指導とハラスメントのあいまいな境界線

北野さんが部下から逆パワハラを受けたのは2024年の秋。中小企業を含め、企業のハラスメント対策が義務化されてから2年以上が経っていました。

 

本来であればハラスメントの定義が明確になり、一人ひとりが「これはハラスメントに該当するのだろうか」と迷う必要はなくなるはず。しかし、北野さんは「少しでも強く言えば問題になる」と悩み、部下に対して必要な指導をすることができなくなってしまったのです。

 

厚生労働省の「職場のハラスメントに関する実態調査について(令和5年度調査)」によると、勤務先の企業がハラスメント対策に取り組んでいると回答した人のなかで、部下への指導のしやすさについて「変わらない」「悪化した」と回答した人が70%を超えています。

 

出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について(令和5年度調査)」
出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について(令和5年度調査)」

 

また、過去3年間に各ハラスメントの相談があったと回答した企業のなかで、相談の割合がもっとも高かったのが「パワハラ」です。パワハラについて、「過去3年間に相談件数が増加している」と回答した割合が19.6%、「変わらない」が30.2%、「減少している」が21.8%でした。

 

出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について(令和5年度調査)」
出典:厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査について(令和5年度調査)」

 

これらのデータからは、正当な指導とハラスメントの境界線があいまいなため、企業がハラスメント対策を行っていても、ハラスメントへの配慮が一人ひとりの努力にゆだねられていることが推察できます。

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