贈与があったか否かを判断するポイント
吉田課長「ほかにも、贈与があったか否かを判断するポイントはありますか?」
あります。それが、③預貯金証書の保管状況と、④その後の登録印の保管状況の確認です(前掲2.(7)(8))。
亡乙は、他の相続人や孫名義の本件申告預貯金等をすべて自ら保管していました。当時はネット銀行がありませんので、預貯金の預け入れや解約は、預貯金証書と登録印を使って行います。
このように、「預貯金証書と登録印の実質的な支配者は誰か」という点も、贈与が成立していたかどうかを判断する重要な判断材料になるということです。
なお、裁判所は、原告が本当に贈与を受けていたと認識していたかどうかについて、平成11年の名義・住所変更手続き以前は、原告ら名義の預貯金の全容を正確に把握していなかったと判断しています(前掲2.(9)②ロa)。
つまり、原告は「どれだけの預貯金が、どのような経緯で作られていたのか(=贈与を受けていたのか)」を完全には説明できなかったということです。
丁(長男)についても同様で、丁自身とその子ども名義の本件申告預貯金等が存在していたにもかかわらず、裁判所は丁がその存在を知らなかったと認定しています(前掲2.(9)②ロb)。
親族間の贈与は曖昧になりやすいため、贈与の事実を明確にする方法として「贈与契約書」の作成があります。
本件では、亡乙から原告ら親族への本件申告預貯金等の移転に際し、贈与契約書が作成されていませんでした。裁判所はこれを、贈与があったと認められない理由の一つとしています(前掲2.(9)②ニ)。
吉田課長「なるほど。よくわかりました」
【結論】名義預金に贈与の意思は認められず
判決文の結論を確認しましょう。裁判所は、ポイントを大きく2つに分けて判断しています。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(9)原告の主張と、東京地裁による事実認定、結論
③東京地裁の結論
イ.結論1
原告に具体的な資金需要が生じたり、亡乙自身において具体的な資金需要が生じた際に、必要に応じてこれを解約し、各名義人の各預貯金の金額とは直接関係のない金額を現実に贈与したり、あるいは自ら使用することを予定していたとみるべきである。
ロ.結論2
亡乙においては、昭和55年頃当時またはその後の各預け入れの当時、将来の預入金額またはその後の預け入れに係る各預入金額を、直ちに各名義人に贈与するという確定的な意思があったとまでは認められない。
ハ.(9)②ハ.の500万円の出所についての結論
次のa~dの理由により、原告の主張は採用することができない。
a.亡乙が平成14年5月2日および20日に解約した原告名義の貯金の金額は合計約382万円にすぎないこと。
b.同月の時点において解約可能な原告名義の貯金は他にもあったが、解約されなかったこと。
c.同年6月3日に亡乙名義の普通貯金口座から出金された金員およびその翌日に原告名義の普通預金口座に入金された金員はいずれも500万円であること。
d.原告の亡乙から500数十万円を受け取ったという主張(図表の2(9)①ロ)に対しては、亡乙が500万円を超える金額の現金を原告に交付したことを裏付けるに足りる客観的な証拠はないこと。
1.名義人(長女)への贈与とは認められない
亡乙は、相続人やその子ども名義で本件申告預貯金等を作っていました。しかし、原告に資金需要が生じたときには、原告名義の預金だけでなく、亡乙名義の預金を取り崩して援助していました。場合によっては、亡乙自身が使うためにも本件申告預貯金等を利用していました。
つまり、預貯金を作った時点で「名義人へ贈与した」とはいえないというのが裁判所の結論です(上記2.(9)③イ)。
2.贈与の確定的意思は認められない
昭和55年に本件申告預貯金等を預け入れた当時から、亡乙に「名義人へ贈与する」という確定的な意思があったとは認められない、と裁判所は判断しました(上記2.(9)③ロ)。
おそらく亡乙自身は、裁判所が述べたような気持ちで預貯金を作っていたわけではないと思います。しかし、亡乙がとった実際の行動が、贈与したことを裏づけるものでなかったことが、結果的に敗訴につながりました。
