「名義預金」は誰のもの?…判断のポイント
吉田課長「本件申告預貯金がすでに原告へ移転していたのか、それとも亡乙が持ち続けていたのか、その判断はどうやって行うんですか?」
当事者の主観だけでは判断できません。亡乙と原告などの関係者が実際にどのような行為・行動をとっていたのか、客観的な事実関係を総合的に分析して判断します。ここでは、亡乙と原告が行った行為に絞って整理します。
裁判所は、①預け入れ時の名義人名・住所・登録印、②原告名義の預貯金の解約と使途、③預貯金証書の保管状況、④その後の登録印の保管状況の4点を検討しました(下記2.(5)~(8))。
2.親族名義預貯金の帰属に関する裁判例
(5)預け入れ時の名義人名・住所・登録印(原告の場合)
①平成11年11月25日前に存在していた本件申告預貯金
名義人は原告の旧姓「乙」が使用され、住所は亡乙の住所地であった。
②平成11年11月25日以後に開設された本件申告預貯金
名義人は原告の現在の姓「甲」が使用され、住所は原告の住所地となった。登録印には、原告が保管していた「甲」の印鑑が使用された。
(6)原告名義の預貯金の解約と使途
原告は平成14年3月、東京都の自宅隣接地を購入するため、手付金500万円を不動産業者に支払った。原告から事情を聞いた亡乙は、500万円を原告に渡した。
この500万円が「原告名義の本件申告預貯金から支出されたのか」「亡乙自身の預貯金から支出されたのか」が、裁判において争点となった(前者であれば、原告はすでに本件申告預貯金の贈与を受けていたことになる)。
(7)預貯金証書の保管状況
亡乙は、本件申告預貯金等に係るすべての定期預貯金証書を自ら保管しており、名義人である原告ら親族に渡すことはなかった。
(8)その後の登録印の保管状況
亡乙は、本件申告預貯金等の登録印として使われていた「甲」(原告)や「Q」(戊。二男)の印鑑を保管していた。ただし、平成15年以降は原告および戊に対し、それぞれ印鑑を交付している。
吉田課長「今回の裁判で問題になっているのは、原告(長女)とその子どもの名義の預金だけですよね」
そのとおりです。税務署は、預貯金証書に記載された「名義」「住所」「登録印」に注目します。本件では、他の相続人は訴訟に参加していないため、原告ら名義の預貯金について集中的に審理されました。
原告は結婚により姓が「乙」から「甲」に変わりました。本件申告預貯金が原告のものであれば、名義や住所を正しく変更するのが普通です。
原告が結婚したのは昭和62年ですが、その約11年後に初めて、原告名義の預貯金が旧姓のまま、住所も実家のままであることに気づきました。そこで、原告はこの点を亡乙に話し、平成11年11月25日に名義・住所・登録印の変更を行いました。
この事実から、もし贈与を受けていたのであれば「なぜ約11年間も名義変更をしなかったのか」という疑問が生じます。
ただし、同日以降に開設された本件申告預貯金については、名義人の姓を「甲」、住所を原告の住所地、登録印を「甲」に変更しており、この時点で名義・住所・登録印の問題は一応解消されています。
税務の観点では、預貯金口座の贈与を受けたのであれば、金融機関に姓・住所の変更を届け出て、登録印は贈与者と異なるものに変え、自ら保管しておくことが重要です。
吉田課長「『②原告名義の預貯金の解約と使途』ですが、この事例では農協と信用金庫に預けていたのですね」
はい。金融機関には、全国で営業する金融機関と、地域限定で営業する金融機関があります。本事例は後者で、地域限定の金融機関に預けられた預金でした。
原告は東京に住んでいたため、すぐに出し入れすることはできません。そこで、父である亡乙に預かってもらっていた、というのが原告の主張です。
このような場合、もし贈与が成立しているのであれば、預貯金通帳を預かる亡乙には「これは預かり物である」という強い自覚が必要になります。
