1年経っても決まらない買い手、時間がたつほど会社の価値が…
契約締結後、M&A仲介会社は買い手候補を数社紹介した。
しかし、話はなかなか進まなかった。
ある会社は価格面で折り合わず、別の会社は「主要取引先への依存度が高い」として検討を中止した。
あと1社とは面談まで進んだものの、従業員の高齢化が著しいという理由で、見送られた。
半年が過ぎ、1年が経過した。当初は頻繁に連絡をくれていた担当者からの連絡も、少しずつ減っていった。
熊田社長が進捗を尋ねても、
「現在も候補先を探しています」
「市場環境を見ながら進めています」
という回答が繰り返されるばかりだった。
熊田社長は次第に不安を感じ始めた。
船舶部品の原材料である鉄の価格はじわじわと上がっている。会社は現在も黒字だが、熊田社長自身の体力には限界がある。熟練の従業員も確かに高齢化しており、時間をかければかけるほど、会社の価値が減少している気持ちになってくる。
別の企業に相談も「当社が買い手探しをするのは難しいですね」
そんなとき、長年の経営者仲間から、別のM&A仲介会社を紹介された。
「後継者がいないようなら、製造業のM&Aに詳しい会社を知っているから、1度話を聞いてみたらどうか」
熊田社長は、現在の仲介会社との契約を続けながら、別の会社にも1度相談してみようと考えた。
ところが、現在契約中の仲介会社との契約書を確認した新しい仲介会社の担当者は、難しい表情を浮かべた。
「この契約ですと、当社が正式に買い手探しをするのは難しいですね」
「なぜですか?」
「専任条項が入っています」
「あっ(そういえば)」
熊田社長は、1年前に「1日でも早く相手探しをしたい」と仲介会社から説明を受けたものの、聞き流してしまった言葉を思い出した。
