「一緒に暮らそうか」15年ぶりに戻ってきた46歳息子
文子さん(仮名・74歳)は、年金月約16万円で暮らしています。夫を亡くしたあとも住み続けてきた3LDKの持ち家があり、預貯金は約3,100万円です。
5年前まで、一人息子の健一さん(仮名・現在46歳)は県外で働いていました。転機になったのは、健一さんが勤めていた会社を退職したことです。
「地元で仕事を探そうと思ってる。一緒に暮らそうか」
そう言われたとき、文子さんはうれしかったといいます。
当時69歳。一人暮らしに大きな不自由はありませんでしたが、「この先もずっと一人なのだろうか」という不安はありました。
息子がいれば、家で何かあったときにも心強い。年金と貯蓄があり、住宅ローンもない。文子さんは「これで老後は安心」と思いました。
健一さんは地元企業に再就職し、毎月5万円を生活費として入れることになりました。親子の生活は順調に始まりました。
ところが、文子さんの毎日は少しずつ変わっていきます。
一人のころは、夕食を簡単に済ませる日もありました。友人と出かけて帰宅が遅くなれば、買ってきた総菜だけで済ませることもあります。
息子と暮らし始めると、「仕事から帰ってくるなら」と夕食を作るようになりました。最初は久しぶりに息子の好物を作ることが楽しかったといいます。
洗濯も同じでした。「一人分も二人分も同じだから」と、健一さんのものまで文子さんが洗うようになりました。
健一さんも休日には掃除をし、重いものを運んだり、車で買い物へ連れていったりします。家事をすべて母親任せにしていたわけではありません。
それでも、夕方になると文子さんは「今日は何時に帰ってくるかな」と時計を見るようになりました。友人から夕食に誘われても、「息子のご飯があるから」と断ることが増えました。
厚生労働省『令和6年国民生活基礎調査』によると、65歳以上の人がいる世帯のうち、「親と未婚の子のみの世帯」は20.4%です。高齢の親と成人した未婚の子が暮らす世帯は、一定の割合を占めています。
同居から3年ほどたったころ、友人に言われました。
「息子さんが帰ってきてから、前より付き合い悪くなったね」
文子さんは笑って流しましたが、その言葉がきっかけで、自分の生活を振り返るようになりました。
