(※写真はイメージです/PIXTA)

子どもとのつながりを心の支えにする高齢者は少なくありません。帰省、電話、ちょっとした相談。親にとっては自然な関わりでも、子ども側には負担として積み重なることがあります。親子であっても、距離の取り方を誤れば関係がこじれ、老後に頼れると思っていた家族とのつながりを失ってしまうこともあります。

「もう距離を置きたい」…親子の関係を壊した一言

決定打となったのは、節子さんが大輔さんの妻に直接電話をしたことでした。

 

「大輔に、もっと実家のことを気にするように言ってくれない?」

 

悪気はありませんでした。けれど、その電話は大輔さん夫婦の間に大きな波紋を広げました。

 

数日後、大輔さんからメッセージが届きました。

 

「しばらく帰省もしない。電話もしない。必要な連絡はメールにして」

 

節子さんは画面を見つめたまま固まりました。

 

「まさか、ここまで言われるなんて」

 

修一さんも、最初は怒りました。

 

「親を見捨てるつもりか」

 

しかし後日、大輔さんはこう打ち明けました。

 

「見捨てたいわけじゃない。でも、電話のたびにお金の話や愚痴を聞かされて、帰省しても責められる。もう限界だった」

 

修一さん夫婦は、息子の言葉をすぐには受け入れられませんでした。自分たちはただ、少し助けてほしかっただけ。寂しかっただけ。そう思っていたからです。

 

夫婦は地域包括支援センターに相談しました。買い物支援、配食サービス、見守り、介護予防、生活上の困りごとを相談できる窓口があることを知ります。これまで「息子に頼むしかない」と思い込んでいた夫婦にとって、家族以外の支援につながることは大きな転機でした。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。夫婦世帯であっても、子どもと距離がある場合、生活の不安や孤立感を抱えやすくなることがあります。

 

節子さんは、今でも息子からの電話がない夜に寂しさを感じます。それでも、以前のように何度も連絡することはやめました。用件をまとめ、必要なときだけメールを送る。お金の相談は、まず夫婦で家計を確認し、自治体の窓口にも相談するようにしました。

 

「親子だから、何を言っても分かってくれると思っていたんです」

 

節子さんはそう話します。

 

親子のつながりは大切です。しかし、その関係に甘えすぎれば、相手の生活を見失ってしまうことがあります。

 

老後の寂しさや不安を、子どもだけで埋めようとすると、親子双方が苦しくなります。家族に頼ることは悪いことではありません。ただ、頼る前に、相手の状況を想像すること。そして、地域や制度の支援も組み合わせること。

 

「帰省もしない、電話もしない」

 

息子の言葉は、修一さん夫婦にとってあまりにも冷たく響きました。しかしそれは、親子関係を完全に断つためではなく、これ以上壊さないために必要な距離だったのかもしれません。

 

 

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