「もう距離を置きたい」…親子の関係を壊した一言
決定打となったのは、節子さんが大輔さんの妻に直接電話をしたことでした。
「大輔に、もっと実家のことを気にするように言ってくれない?」
悪気はありませんでした。けれど、その電話は大輔さん夫婦の間に大きな波紋を広げました。
数日後、大輔さんからメッセージが届きました。
「しばらく帰省もしない。電話もしない。必要な連絡はメールにして」
節子さんは画面を見つめたまま固まりました。
「まさか、ここまで言われるなんて」
修一さんも、最初は怒りました。
「親を見捨てるつもりか」
しかし後日、大輔さんはこう打ち明けました。
「見捨てたいわけじゃない。でも、電話のたびにお金の話や愚痴を聞かされて、帰省しても責められる。もう限界だった」
修一さん夫婦は、息子の言葉をすぐには受け入れられませんでした。自分たちはただ、少し助けてほしかっただけ。寂しかっただけ。そう思っていたからです。
夫婦は地域包括支援センターに相談しました。買い物支援、配食サービス、見守り、介護予防、生活上の困りごとを相談できる窓口があることを知ります。これまで「息子に頼むしかない」と思い込んでいた夫婦にとって、家族以外の支援につながることは大きな転機でした。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。夫婦世帯であっても、子どもと距離がある場合、生活の不安や孤立感を抱えやすくなることがあります。
節子さんは、今でも息子からの電話がない夜に寂しさを感じます。それでも、以前のように何度も連絡することはやめました。用件をまとめ、必要なときだけメールを送る。お金の相談は、まず夫婦で家計を確認し、自治体の窓口にも相談するようにしました。
「親子だから、何を言っても分かってくれると思っていたんです」
節子さんはそう話します。
親子のつながりは大切です。しかし、その関係に甘えすぎれば、相手の生活を見失ってしまうことがあります。
老後の寂しさや不安を、子どもだけで埋めようとすると、親子双方が苦しくなります。家族に頼ることは悪いことではありません。ただ、頼る前に、相手の状況を想像すること。そして、地域や制度の支援も組み合わせること。
「帰省もしない、電話もしない」
息子の言葉は、修一さん夫婦にとってあまりにも冷たく響きました。しかしそれは、親子関係を完全に断つためではなく、これ以上壊さないために必要な距離だったのかもしれません。
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