「もっと早く言ってくれれば」…責任を一人で背負った父
真理子さんは、父を責めることができませんでした。
通帳には、芳江さんの住む地域の銀行口座への振り込みが何度も残っていました。ある月には、家賃の滞納分と思われる十数万円。別の月には、入院費の立て替えとみられる出金。少額の振り込みが続く月もありました。
「なんで私に言ってくれなかったの」
真理子さんがそう言うと、昭男さんは小さく首を振りました。
「お前にはお前の生活がある。妹のことまで背負わせるわけにはいかないと思った」
その言葉に、真理子さんは胸が詰まりました。父は自分の生活を削って、妹の暮らしを支えていたのです。けれど、それは父ひとりで抱えられる問題ではありませんでした。
内閣府『令和7年版高齢社会白書』では、65歳以上の一人暮らしの人は増加しており、令和7年時点で65歳以上人口に占める一人暮らしの割合は男性18.3%、女性25.4%と推計されています。一人暮らしの高齢者が増えるなか、認知機能の低下や金銭管理の不安に、親族が気づきにくいケースもあります。
さらに、認知症や軽度認知障害に関する厚生労働省などの推計では、令和4年時点で認知症高齢者数は443.2万人、MCI高齢者数は558.5万人とされています。もの忘れや支払い忘れが出てきた段階で、家族だけで抱え込まず、早めに地域包括支援センターや自治体の窓口へ相談することが重要です。
真理子さんは、父と一緒に芳江さんの家を訪ねました。部屋には未開封の食品や同じ日用品がいくつも積まれ、郵便物は整理されないままになっていました。芳江さんは「私は大丈夫」と繰り返しましたが、ひとりで生活を管理するのは難しくなっていることが分かりました。
その後、真理子さんは地域包括支援センターに相談しました。介護保険の申請、見守りサービス、金銭管理の支援、成年後見制度の利用可能性など、検討すべき選択肢を教えてもらいました。父が個人的にお金を出し続けるのではなく、制度につなげながら支える方法を考えることになったのです。
「もっと早く気づいていれば、お父さんだけに背負わせずに済んだのに」
真理子さんはそう話します。
家族を助けたいという思いは尊いものです。しかし、その責任を一人で抱え込み続ければ、自分自身の生活にも大きな影響を及ぼします。
家族だけで何とかしようとするのではなく、必要に応じて制度や地域の支援につなげることも大切です。真理子さんは通帳を通して、残高だけではなく、父が長年ひとりで抱えてきた責任の重さを知ることになったのです。
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