豪華な空間が辛い…それなのに「戻る家はない」
礼子さんが入居した施設は、コンシェルジュが常駐し、毎日のようにイベントが開かれる充実のサポート体制でした。しかし、夫亡き後、ひとり静かに暮らしてきた礼子さんにとって、その空間は異質すぎました。
入居者は華やかな経歴を持つ人が多く、会話に気後れした礼子さんは、入居して早々部屋に引きこもるようになります。
そして入居から10日後、礼子さんに会いに行った亮介さんに、礼子さんは涙ながらにこう言ったのです。
「亮介、ここは嫌。自分の家に帰りたい……」
しかし、すでに実家は他人のものになり、取り壊しが進んでいる。戻る家は、もうどこにもないのです。
「……慣れるまで、もう少し頑張ろう。ね、母さん」
握られた母の手をそっと離し、施設の担当者に母を預けるしかありませんでした。亮介さんは、その時の母を思い出しては良心の呵責に苦しみ、激しい後悔に襲われたのです。

