(※写真はイメージです/PIXTA)

退職後は旅行をしたり、趣味を楽しんだり――。現役時代からそんな生活を思い描いている人もいるでしょう。しかし自分たちが60代になるころには、親も80代、90代を迎えます。夫婦の老後が始まるのと同時に、高齢になった親の生活を支える必要が出てくることもあります。

退職から半年…出発3日前にかかってきた母からの電話

「旅行はキャンセルして。ちょっと来てほしいの」

 

母から電話がかかってきたのは、隆さん(仮名・66歳)が妻の美智子さん(仮名・65歳)と旅行の準備をしていた夕方でした。

 

3日後から5泊6日で北海道へ行く予定でした。隆さんが65歳で会社を退職してから半年。夫婦にとって初めての長期旅行です。

 

「何かあったの?」

 

「昨日から腰が痛くてね。買い物にも行けないし、一人だと不安なの」

 

電話の相手は、車で約1時間半の場所に一人で暮らす隆さんの母・芳江さん(仮名・85歳)でした。

 

父は8年前に他界。芳江さんはその後も一人暮らしを続け、買い物や食事も自分でこなしていました。隆さんも月に1、2度は様子を見に行っていましたが、日常的な手助けが必要だとは考えていませんでした。

 

その日はすぐに実家へ向かいました。幸い入院が必要な状態ではありませんでしたが、数日は買い物や家事を手伝うことに。旅行は結局キャンセルしました。

 

「仕方ないよ。お母さん一人なんだから」

 

美智子さんも、そのときはそう言いました。ところが、それを境に芳江さんからの連絡が増えていきます。

 

「電球が切れた」「重いものが買えない」「役所から書類が届いたけど分からない」。そのたびに隆さんが車で実家へ向かいました。

 

週に1度だった訪問が、多いときには週3回になることもありました。ある夜、美智子さんが尋ねました。

 

「来月の温泉、予約して大丈夫なの?」

 

隆さんはすぐには返答できませんでした。

 

「母さんに何かあったら困るから、もう少し様子を見よう」

 

夫婦の年金は合わせて月約23万円。住宅ローンは完済しており、退職前には「年に数回は旅行しよう」と話していました。しかし、時間に余裕ができたはずの退職後、予定は母の都合を中心に決まるようになっていったのです。

 

内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、65歳以上で要支援・要介護の認定を受けている人は681.4万人です。特に85歳以上では、要支援が14.0%、要介護が44.5%となっており、年齢が上がるほど支援を必要とする人の割合は大きく上昇します。

 

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