(※写真はイメージです/PIXTA)

老後資金に余裕がある家庭では、日々の生活費に追われる不安は少ないかもしれません。しかし、経済的な余裕がそのまま夫婦関係の安心につながるとは限りません。退職後は、時間の使い方や交友関係、お金の使い道が変わりやすく、それまで見えなかった価値観のズレが表面化することがあります。

「お金があるからいい」では済まない…妻が離婚届を置いた夜

敏夫さんにとっては「貯蓄もあるし、年金も十分ある。少しくらい使っても問題ない」という感覚でした。しかし、紀子さんの受け止め方は違いました。

 

「このお金は、あなたが好きに遊ぶためだけのお金じゃない。病気になったとき、介護が必要になったとき、家を直すときのためのお金でしょう」

 

金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査(2023年)』では、老後の生活について心配している世帯は少なくなく、その理由には「十分な金融資産がないから」「年金や保険が十分ではないから」「物価上昇への不安」などが挙げられています。

 

紀子さんが怒っていたのは、敏夫さんが娯楽を楽しんだこと自体ではありませんでした。

 

退職後の人生を楽しむことは悪いことではありません。友人と会い、外に出て、気分転換をすることも大切です。

 

ただ、夫婦で築いた老後資金を、一方が「自分の自由なお金」として扱い始めたことが、紀子さんには許せなかったのです。

 

ある夜、敏夫さんが帰宅すると、食卓の上に離婚届が置かれていました。

 

「本気なのか」

 

敏夫さんが聞くと、紀子さんは静かに答えました。

 

「本気に決まっているでしょう。お金がなくなったから怒っているんじゃないの。私に黙って、これからの生活を軽く見られたことが嫌なの」

 

敏夫さんはそのとき初めて、自分の支出が単なる娯楽費ではなく、夫婦の信頼を削っていたことに気づきました。

 

その後、夫婦は話し合いを重ねました。離婚届はいったんしまわれましたが、紀子さんは条件を出しました。

 

毎月の娯楽費に上限を決めること。クレジットカードの明細を共有すること。老後資金を、生活費、医療・介護費、住宅修繕費、余暇費に分けて管理すること。そして、夫婦どちらか一方が大きなお金を使うときは、事前に相談すること。

 

「お金があるから大丈夫、ではなかったんです。妻が怒ったのは、金額よりも、私の考え方だったんだと思います」

 

退職後は、時間も人間関係も変わります。現役時代にはなかった誘いや楽しみが増えることもあります。

 

しかし、老後の暮らしは長く続きます。医療、介護、住まいの維持、物価上昇など、将来の支出も避けて通れません。

 

余裕がある家庭ほど、「これくらいなら大丈夫」という油断が生まれることがあります。けれど、その油断が家計ではなく、夫婦の信頼を壊してしまうこともあるのです。

 

 

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