「これで少し楽になる」…特養入居で見えた一時の安心
美紀さん(仮名・55歳)は、夫の母である和子さん(仮名・79歳)の介護に、長く関わってきました。
和子さんは要介護3。数年前から足腰が弱り、認知機能にも波が出るようになっていました。最初は週に数回の訪問で済んでいましたが、転倒をきっかけに一人暮らしが難しくなり、美紀さん夫婦の生活は一変します。
「朝、義母の家に寄ってから仕事に行く。帰りにも様子を見る。休日は買い物と病院の付き添い。気づいたら、自分の時間がほとんどなくなっていました」
夫も協力していましたが、平日は仕事が忙しく、細かな連絡や介護サービス事業者との調整は美紀さんに偏りがちでした。
そんななか、ようやく特別養護老人ホームへの入居が決まります。
特別養護老人ホームは、原則として要介護3以上の人が対象となる公的性格の強い施設です。費用面では有料老人ホームより抑えられることが多く、在宅介護に限界を感じた家族にとっては、大きな支えになります。
「正直、入居が決まった日は泣きました。これで夜中の電話におびえなくていい。急に転んだと言われて駆けつける生活も終わる。そう思ったんです」
和子さんの年金は月16万円ほど。施設費用は介護サービス費の自己負担に、食費、居住費、日用品代などを合わせても、年金の範囲におおむね収まる見込みでした。
美紀さんは、ようやく肩の荷が下りたと感じました。
ところが入居から半年ほど経ったころ、その安心は少しずつ揺らぎ始めます。施設からの電話は、思っていたより頻繁にありました。
「熱が出たので受診します」
「転倒がありました」
「衣類が足りなくなっています」
「面会時に今後の方針について相談したいです」
もちろん、施設側の対応に不満があったわけではありません。むしろ丁寧に連絡をくれていることは分かっていました。
それでも美紀さんは、電話が鳴るたびに胸がざわつきました。
「入居したら終わりだと思っていたんです。でも、終わったわけではなかった。場所が家から施設に変わっただけで、家族として判断することは残っていました」
