(※写真はイメージです/PIXTA)

アメリカにとって、20世紀はかつてない繁栄の時代であった。長期にわたり持続した成長と雇用、そして資本と労働の好循環は、米国経済の安定を支えてきた。しかし21世紀に入ると、その構造に変化が生じる。バブル崩壊や大不況、ゼロ金利への陥落、さらにはグローバル化の進展――これらの要因が重なり、従来の成長モデルは大きな転換点を迎えることとなった。本記事では、武者陵司氏の著書『トランプの資本主義革命』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、21世紀の米国経済・金融が直面した深刻な資本制危機と、それによってもたらされた3つの変化を解説していく。

「空前の低金利」の背景にあるもの

しかし、もうひとつの資本のリターンである利子率は、逆に経済の成長率よりもずっと低いという第二の不等式、「g(経済成長率)>r2(利子率)」が同時に進行した。すなわち、

 

r1(利潤率)>g(経済成長率)> r2(利子率)

 

である。

 

この空前の低金利の背後には、空前の貯蓄(=資本余剰)がある。それは貨幣の退蔵を引き起こし、金融政策を著しく困難にしてきた。「g>r2」すなわち「経済成長率>長期金利」という不等式は、2004年から金融引締めが始まったにもかかわらず、長期金利はまったく連動せず、金融引締めがしり抜けとなってしまい、流動性が個人の投機的住宅投資を加速させてしまった。まさしく「グリーンスパンの謎」である。

 

低金利で資金調達をして企業に投資すれば、莫大な投資利益が得られるという恵まれた環境ではあるが、両者の乖離拡大が続けば、どこかの時点で資産バブルが形成され、大恐慌型の経済危機、ひいては金融システムの崩壊すら引き起こす危険要素を内包している。

 

筆者は2007年に上梓した『新帝国主義論』(東洋経済新報社)のなかで、米日で利潤率と利子率の乖離が2000年頃から起こり始め、株高の条件を整えていると指摘したが、驚くべきことに、その乖離が20年間にわたって定着し、さらに拡大してきたのである。この乖離は真性のデフレに陥った日本においてとくに顕著だった。

 

なぜ低金利のもとでも投資が起きないのか。それは人々の心理が悲観化し、いくら金利が下がっても投資をしようとしなくなったからである。

 

これを自然利子率(=実質の中立金利)の急低下と捉えることもできる。デフレ心理のもとで、ホブソンが批判した「貨幣への偏愛」が高まり、自然利子率がマイナスになってしまえば、金融政策は機能不全に陥る。ここに歴史的実験としてのQE(量的金融緩和)の必要性が生まれたのである。

 

バーナンキFRB議長は、QEの目的をリスクプレミアムの引下げと説明したが、それは銀行の先に借り手がいなくなり信用創造が機能しなくなったからには、資産価格を引き上げて購買力創造を行うしかない、と言っているようなものだ。事実、米国の需要創造の3つのチャンネルである、銀行信用、政府信用、株式時価総額をたどると、リーマンショック以降、民間信用、政府信用が対GDP比で停滞するなか、株式時価総額が対GDP比で70%以下から、240%以上へと急増し、経済成長をけん引したことが、明確である[図表5]

 

出所:FRB、武者リサーチ
[図表5]米国債務残高と株式時価総額/GDP推移(対GDP%) 出所:FRB、武者リサーチ

 

 

次ページコロナショック以降の経済動向

※本連載は、武者陵司氏の著書『トランプの資本主義革命』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集したものです。

トランプの資本主義革命

トランプの資本主義革命

武者 陵司

日本実業出版社

「予測不能な人間でありたい」と自著で語るとおり、その剛腕で世界を振り回して混乱に陥れているトランプ政権。 トランプ政権がなにを目指しているのかを理解すれば、先が読める、投資で勝てる! 既存メディアの表層的な…

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