“出せる範囲”で選ばせた自分…言えなかった一言の重さ
その瞬間、美代子さんは言葉を失いました。否定されたのは品物そのものではなく、「それを選んだ自分」だったように感じたのです。
本当は、好きなものを自由に選ばせてあげたかった。けれど値札を見たときから、頭の中では「ここまでなら出せる」という線を引いていました。「好きなものを買いなさい」と言えず、無理のない範囲で選ばせようとした自分……。
結菜ちゃんはすぐに別の商品へ目を移しましたが、美代子さんはその場から動けませんでした。買ってあげたい。でも、このあと食料品も買わなくてはならない。来週は通院もある。そう考えると、簡単には「好きなものを」と言えませんでした。
結局、美代子さんは「今日は文房具だけにしようか」と言って、比較的安価なノートとシャープペンを買って店を出ました。会計は2,000円弱。それでも、予定よりは少し多い出費でした。
帰り道、結菜ちゃんはアイスを食べながら他愛のない話をしていましたが、美代子さんの耳にはあまり入ってこなかったといいます。
「孫は何も悪くないんです。ただ、私のほうが勝手に、“おばあちゃんらしく何かしてあげたい”って力んでいただけで」
その夜、美代子さんは家に戻ると、財布の中身を机の上に並べました。月末までの暮らしをどう回すか、頭の中で何度も計算したといいます。
厚生労働省『令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、国民年金の老齢年金受給者の平均年金月額は5万9,431円です。受給額は加入歴などで大きく異なりますが、高齢期の生活が年金だけで十分とは言いにくい実態が続いています。
美代子さんの場合、亡くなった夫の厚生年金の影響もあり、月15万円という金額自体は極端に低いわけではありません。ただ、家賃負担があり、食費や医療費、日用品の値上がりも続くなかでは、「少し余裕がある」とはとても言えないと話します。
「娘には、なるべく口を出したくないんです。向こうにも生活がありますし、私まで“苦しい”なんて言ったら負担になるでしょう」
一方で、娘の側も母の家計に甘えているわけではありません。むしろ「お母さんは無理しないで」と何度も言っていたそうです。それでも美代子さんは、孫の前では“何も買ってあげられない祖母”にはなりたくなかったのだといいます。
