「好きなものを買いなさい」と言いたかったが…
千葉県内の団地で一人暮らしをする美代子さん(仮名・70歳)は、年金月15万円で暮らしています。夫を62歳で亡くしてから、生活は大きく変わりました。持ち家ではなく家賃5万円台の賃貸暮らし。食費も光熱費も、以前よりずっと細かく気にするようになったといいます。
「スーパーでは値引きシールの時間を気にしますし、服も自分のものは何年も買っていません。でも、孫に会うときだけは、少し見栄を張りたくなるんです」
美代子さんには、小学5年生の孫娘・結菜ちゃん(仮名・11歳)がいます。娘夫婦は共働きで、平日は忙しい日が続いています。月に一度ほど、美代子さんが一緒に昼食をとったり、ショッピングモールに連れて行ったりするのが、ささやかな楽しみでした。
その日も、結菜ちゃんの新学期用の文房具を見に行く約束をしていました。美代子さんは前日から財布の中身を何度も確認していました。
「今月は医療費がかさんで苦しかったんですが、それでも孫には“好きなもの買いなさい”って言ってあげたかったんです」
ショッピングモールの雑貨店で、結菜ちゃんは流行のキャラクターが付いたペンケースや、友達の間で人気だというキーホルダーを手に取りました。どれも可愛らしいものばかりでしたが、値札を見ると思っていたより高い。
「昔は、文房具ってもっと気軽に買えるものでした。いまはかわいいものほど高い」
そう思いながら、美代子さんは棚の下の方にあった、少し安めのポーチを手に取りました。淡い花柄で、年配の目には十分かわいらしく映りました。
「これなんてどう? 上品だし、長く使えそうよ」
すると結菜ちゃんは、悪気のない声でこう言ったといいます。
「えー、なんか、ちょっとダサいかも……」
