「家に戻ればいい」…娘との再同居を軽く考えていた夫婦
和夫さん(仮名・68歳)と妻の美智子さん(仮名・66歳)は、住宅ローンを完済した戸建てで暮らしていました。夫婦の年金は合わせて月24万円ほど。贅沢はできませんが、二人だけなら穏やかに暮らせる見通しでした。
そこへ、38歳の長女・真希さん(仮名)が戻ってきました。都内で一人暮らしをしていましたが、勤め先の業績悪化で収入が減り、家賃負担が重くなったためです。
「少しの間だけ、実家に置いてほしい」
そう言われ、夫婦は深く考えずに受け入れました。
「部屋も余っているし、娘が困っているなら当然だと思いました」
最初の数週間は、むしろにぎやかでした。食卓に会話が増え、美智子さんも「娘がいると安心」と感じていました。
しかし、同居が長くなるにつれ、生活のズレが見え始めます。
真希さんは夜遅くまで起き、朝は遅い。食事の時間も合いません。洗濯物は増え、光熱費も上がりました。食費も、二人分から三人分になると想像以上に違いました。
総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の夫婦のみ無職世帯では、可処分所得約22.2万円に対し、消費支出は約26.4万円で、平均では毎月赤字です。夫婦の年金月24万円も、三人で暮らすには余裕があるとは言えません。
美智子さんは、ある月の通帳を見て小さく息をのみました。
「二人なら足りていたのに、娘が戻ってから毎月の減り方が違う」
それでも、娘に強く言うことはできませんでした。
「せっかく帰ってきたのに、追い詰めたくなかったんです」
その遠慮が、後のすれ違いにつながっていきました。
同居から3ヵ月が過ぎたころ、和夫さんは真希さんに言いました。
「少しでいいから、生活費を入れてくれないか」
真希さんは不機嫌そうに答えました。
「今は収入が減ってるって言ったよね。少しくらい助けてくれてもいいでしょ」
その言葉に、美智子さんは黙り込みました。
真希さんにも事情はありました。収入は不安定で、将来への不安もあります。実家に戻ったことで、ようやく息をつけた面もありました。
しかし、親の生活も無限ではありません。年金、医療費、固定資産税、家の修繕費。ローンが終わっていても、住まいにかかるお金は続きます。
