「もう関わらない」――積み重なった違和感の果てに
転機となったのは、ある日の出来事でした。仕事を終え、帰宅途中にスマートフォンを見ると、母からの着信が複数件入っていました。
「嫌な予感がして折り返したら、開口一番〈5万円だけ貸してほしい〉って言われて…」
その瞬間、これまで積み重なってきた違和感が一気にあふれ出したといいます。
「思わず言ってしまったんです。“どうして私なの?”って」
電話の向こうで、母は一瞬言葉を詰まらせた後、「頼れるのはあなただけだから」と繰り返しました。しかし、その言葉は由紀さんの心には響きませんでした。
「頼れるのはあなただけ、って便利な言葉ですよね。でも、それって“都合よく頼れる存在”にされているだけなんじゃないかと思ってしまって…」
冷静に考えれば、実家には不動産という資産があります。活用方法はいくつもあるはずです。
「例えば一部を賃貸に出すとか、住み替えを検討するとか。そういう話は一切出てこないんです。ただ“足りないから助けて”だけで」
由紀さんは、その日を境に決断しました。
「もうお金の援助はしない、と伝えました。正直、怖かったですけど」
母はしばらく黙ったあと、「冷たい」と一言だけ返して電話を切ったといいます。それ以降、連絡はほとんど来なくなりました。
「関係が良くなったわけではないです。でも、自分の生活を守るためには必要な線引きだったと思っています」
相続放棄は、法的には「一切の財産も負債も引き継がない」選択ですが、家族関係まで切り離せるわけではありません。むしろ、その後の関係性に影響を及ぼすことも少なくありません。
由紀さんは、今も複雑な思いを抱えています。
「助けたい気持ちはあります。でも、それで自分の家庭が崩れてしまったら本末転倒です」
家族だからこそ、どこまで関わるべきか――その線引きは容易ではありません。
相続や老後資金の問題は、“起きてから”では遅いこともあります。関係性がこじれる前に、現実的な選択肢を共有し、家族全体で備えていくことの重要性が、あらためて問われています。
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