息子のためだけに生きてきた72歳女性
相談にやってきたのは、神奈川県在住の田中綾子さん(仮名/72歳)。淡い色のカーディガンに、丁寧に整えられた白髪。落ち着いた所作で深くお辞儀をする姿に、とても上品な印象を持ちました。
「こんな歳になってお恥ずかしいのですが、生活のことで、少し相談に乗っていただきたくて……」
そう切り出した綾子さんは、15年前に夫を病気で亡くし、それからずっと一人で暮らしているとのこと。夫は中堅の建設会社に勤めていたそうです。遺族厚生年金と自身の老齢基礎年金を合わせて、毎月の受給額はおよそ12万円。横浜市内の築30年を超える分譲マンションに、住宅ローンを完済した状態で住んでいます。
けれども管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険、医療保険、そして電気・ガス・水道といった固定費を差し引くと、自由に使えるお金は月3万円ほどしかなく、自身の食費も切り詰めている様子でした。
「主人が亡くなってからは、息子の隆(仮名/45歳)がすべてでした。あの子は東京で会社員をしておりまして、家庭もあるんです。可愛い孫も二人」
そう話す綾子さんの目元には、誇らしさが滲んでいました。中学受験の塾代、大学の学費、就職活動のスーツ代。すべて、自身の生活を後回しにしてでも息子に注ぎ込んできたそうです。
ところが、相談の本題に入った瞬間、綾子さんの表情がふっと曇りました。バッグから取り出したのは、文字の大きさを最大にしたスマートフォン。
「これを、ご覧いただけますでしょうか」
画面に映し出されたLINEのメッセージをみて、筆者はしばらく言葉を失いました。

