激安価格で手に入れた「夢のマイホーム」
「こんなに安いなら、とりあえず買ってみようって。もう、全然悩まないで買ったんですよね……」
都内の町工場を定年退職した松島さん(仮名・69歳)は独身で天涯孤独。手元の貯金は700万円、年金は月11万円です。
65歳で退職、それからはアルバイト生活。当時、東京で家賃を払い続ける不安を抱えていた時、ネットの不動産サイトで見つけたのが、「苗場エリアのマンション:30万円」の物件情報でした。
管理費と修繕積立金、固定資産税を合わせても年間40万円に満たず、都内に比べれば住居費は雲泥の差。“スキーブーム世代”だった松島さんにとって、苗場は憧れの聖地でもありました。
「あの苗場に自分の城が持てる。しかも30万なんて。寒いから人気がないのか? 古いからか? でも、私はそれぐらい大丈夫。なんといっても、一生住める家が持てるんですからね。翌日には不動産屋に電話していました」
「優雅なリゾマン暮らし」を切り裂いた、豪雪と赤字のリアル
移り住んだ当初は、涼しい風、豊かな緑に満足していた松島さんでしたが、試練は12月に幕を開けました。
容赦なく降り積もる大雪。朝起きると、中古で買った車は完全に雪で覆われています。アルバイトの出勤前に、1時間近い除雪作業が必要になる日や、やむなく休む日もありました。
松島さんが移住したエリアは、国からも「特別豪雪地帯」に指定されている、日本屈指の雪国です。雪は単なる「不便」ではなく、高齢者の「命」に直結する脅威です。実際、2025年11月~2026年4月までに雪の影響で全国72人が死亡(総務省消防庁より)。約9割を65歳以上が占めました。
家計の足しにとスキー場でレンタル係のバイトを始めたものの、ガソリン代や冬用タイヤ、車の維持費は想定以上。プロパンガスや暖房で、冬場の光熱費は東京時代の倍以上に跳ね上がりました。
何より辛かったのは、腰と膝の痛み。移住して初めての冬にして「ここに住み続けるのは難しいかもしれないな」――そんな思いが頭をよぎるようになったといいます。多少の我慢はできると思っていたものの、住んでみれば、その厳しさは想像を絶するものでした。
しかし、激安で手に入れたマイホームは、すでに引き返せない“重し”になっていました。
