「老後は好きなことを」…資産がある人が陥りやすい“見落とし”
「こんなに減るなんて、正直思っていませんでした」
そう話すのは、都内で一人暮らしを続ける正彦さん(仮名・68歳)です。大手メーカーで定年まで勤め上げ、退職時点の金融資産は約6,000万円。住宅ローンは完済済みで、年金も月22万円ほど見込めていました。
「節約ばかりの人生だったので、退職したら少しくらい自由に使っていいだろうと思ったんです」
もともと海外旅行が好きでしたが、現役時代は長期休暇が取りにくく、せいぜい年に一度行けるかどうかでした。退職後、最初に申し込んだのはヨーロッパ周遊の長期クルーズ。移動はすべてビジネスクラス、ホテルも高級帯。そこから、正彦さんの“海外生活”が始まりました。
「最初は記念のつもりだったんです。でも、一度やると基準が変わるんですよね」
1回の旅行は1ヵ月前後。春は地中海、夏は北欧、秋は北米、冬は東南アジアという具合に、1年のうちかなりの期間を海外で過ごすようになりました。現地では節約を意識せず、空港ラウンジ、専用送迎、ホテルのアップグレードも“せっかくだから”と受け入れていたといいます。
「若い頃に我慢してきた反動もあったと思います。“今さら我慢して何になるんだ”という気持ちでした」
周囲から見ても、正彦さんの生活は華やかでした。SNSに海の見えるホテル、機内食、ラウンジの写真を載せ、友人からは「理想の老後だね」と言われたそうです。本人も、少なくとも数年はそう信じていました。
ところが、3年ほどたった頃から違和感が出始めます。最初は、帰国後に通帳を見たときでした。資産が確実に減っているのは分かっていたものの、減る速度が想像以上に速かったのです。
「旅行代だけじゃないんです。国内のマンション管理費や保険料、税金、スマホ代なんかは当然かかり続ける。そこに海外での支出が上乗せされていた」
正彦さんは単身世帯ですが、旅行中は月100万円を超える支出になることも珍しくなく、平時の生活コストとはまったく別の水準でお金が出ていっていたといいます。
それでも正彦さんは、「6,000万円あるのだから大丈夫」と思っていました。問題が表面化したのは、旅先ではなく、国内で病院にかかったときでした。軽い不整脈が見つかり、定期検査が必要だと告げられたのです。
「その瞬間、急に怖くなりました。もし今後、入院や介護が必要になったら、このペースでお金を使っていて大丈夫なのか、と」
