穏やかな日常を壊した「見知らぬ番号」からの着信
ミツルさん(仮名・69歳)は、数年前に妻を見送り、現在は実家のある地方都市で一人暮らしをしています。
現役時代は真面目に働き、年金受給額も月15万円と、贅沢をしなければ穏やかに暮らしていけるだけの備えがありました。
ミツルさんの今の最大の楽しみは、都会で家庭を持った一人息子の一家が、正月休みに孫を連れて帰省してくることでした。
年の瀬も迫ったある日の午前中、ミツルさんの家の電話が鳴りました。画面には登録されていない見知らぬ番号が表示されていましたが、何気なく電話に出てみると、聞き慣れた声が切羽詰まった様子で飛び込んできました。
息子そっくりの声から「父さんしか頼れる人がいない」
「父さん、俺だけど。ごめん、携帯をトイレに落として壊しちゃって、会社の携帯からかけてるんだ」
声の調子や話し方が息子にそっくりだったため、ミツルさんはすっかり信じ込んでしまいました。息子を名乗る男は、言葉を詰まらせながら信じられない事実を口にしました。
「会社の重要な書類が入ったカバンを電車に置き忘れてしまったんだ。取引先に多大な損害を与えてしまって、今日中に示談金として900万円を用意しないと、横領で警察に捕まって懲戒解雇になる」
ミツルさんの口座には、老後の医療費や介護費用として蓄えてきた定期預金はあったものの、簡単に手を出せる金額ではありません。
「900万円なんて、そんな大金……」
しかし、電話口の男は「俺の人生が終わってしまう。頼む、父さんしか頼れる人がいないんだ」と泣きついてきました。
