「奨学金」という重荷が当たり前の幸せを遠ざける
SNSを開けば、同世代が流行の服を着たりブランドバッグを手にしたりして、笑顔で溢れています。かつての美咲さんなら抱いたであろう「買い物は楽しい」という純粋な感情は、完全に失われています。
「自由に笑ってお金を使える人たちが、私とは別の世界に住む生き物に見えるんです。私だけが、色のない暗い場所にずっと閉じ込められているような気がして……」
街ですれ違う楽しげな人々の笑顔さえ、美咲さんにとっては自分の孤独を際立たせます。それはもはや怒りというより、どれほど願っても自分だけは「あちら側の世界」へは行けないのだと突きつけられたような、深い無力感に近いものでした。
「私だって、人並みに『今が一番楽しい』なんていってみたい。でも、将来のことを考えると、どうしても心の底から笑うことができないんです」
日本学生支援機構(JASSO)が2024年に公表した「令和5年度 奨学金の返還者に関する属性調査」によると、返還が延滞していない層であっても、その39.6%が「精神的な負担」と感じており、さらにそのうちの12.6%が「かなり重い負担」と回答しているという現状があります。
美咲さんのように返済自体は滞りなく進んでいても、精神面では限界に近い状態にある若者が相当数存在していることを示しています。
また、労働者福祉中央協議会が2022年に実施した調査によると、奨学金の返還が「結婚」や「出産」といったライフイベントの選択に「マイナスの影響がある」と答えた割合は約3割にのぼるという実態があります。
320万円という大きな負債を抱え、日々のわずかな支出に対しても「寿命を削る」ような罪悪感を抱く今回のようなケースでは、奨学金が単なる教育機会の提供に留まらず、卒業後の若者の消費行動を極端に抑制させ、中長期的な心理的健康や人生の選択肢を奪う「鎖」として機能してしまっている点は、制度設計および運用における大きな課題といえるでしょう。
[参考資料]
日本学生支援機構(JASSO)「令和5年度 奨学金の返還者に関する属性調査」
労働者福祉中央協議会「奨学金や教育費負担に関するアンケート調査(2022年)」
文部科学省「令和4年度 学生生活調査」
