(※写真はイメージです/PIXTA)

家族の将来のために「NISAで資産運用を始めたい」と考えた五藤健弥さん(仮名・34歳)は、その旨を妻の美穂さん(仮名・33歳)に相談しました。しかし、「NISAはギャンブルと同じでしょ!」と一蹴。家族の未来を想う気持ちは同じでも、対話は平行線を辿る結果に。今もなお根強い現金信仰や、家庭内での金融リテラシー格差という問題に向き合う夫婦の事例を紹介します。

NISAで投資を始めて将来を見据える夫

都内の賃貸マンションに住む五藤健弥さん(仮名・34歳)。妻の美穂さん(仮名・33歳)と、今春小学校に入学する長男(6歳)の3人家族です。

 

五藤家の世帯年収は約600万円。健弥さんの年収500万円に、美穂さんのパート代を合わせたこの額は、2026年現在の東京では決して余裕のある水準ではありません。

 

「息子が生まれたとき、二人で約束したんです。息子の学費にだけは絶対に手をつけないって」

 

教育資金の目標は、将来の選択肢を広げるための1,000万円。児童手当の1.5万円に加えて、給料から3.1万円を捻出した計4.6万円を現金で毎月積み立て。通帳の数字が増えていくことこそが、息子の未来を守るための鉄則でした。

 

しかし、健弥さんがそんな「預金至上主義」に疑問を持ったのは、職場の先輩との何気ない会話がきっかけでした。食費を浮かすため、妻が作ってくれたお弁当を食べていたとき、隣の席の先輩がスマホの画面を見せてきたのです。 

 

「これ、新卒からずっと放置して積み立ててるだけなんだけどさ」

 

そこには、含み益だけで3桁を超えた資産額が表示されていました。先輩は続けて「これがあるから、将来の不安はないよ」と静かに笑っていました。

 

一方で自分は、月3万円のお小遣いをやりくりし、ただ銀行の数字がわずかに増えるのを眺めるだけ。

 

「今のままでは、家族の未来を守れないかもしれない……」強い焦りを感じた健弥さんは、自分のお小遣いから5,000円を削って、密かにNISAで投資を始めました。

 

そして、しばらく経ったある夜、美穂さんに意を決して「教育資金の積み立ても、NISAでの運用を考えないか」と話題を振ってみました。

 

ところが、想像を絶するほど冷ややかで、突き放すような言葉が美穂さんから返ってきました。

1円たりとも現金を減らしたくない妻の正義

「NISAなんて名前がお洒落なだけで、やってることはギャンブルと同じでしょ! もし息子が大学に行くときに損してお金が減ってたら責任取れるの!?」

 

美穂さんの拒絶は、健弥さんの想像をはるかに超えていました。彼女にとって、日々の生活を切り詰めて守り抜いてきた「通帳の数字」は、家族への愛情そのもの。それを不確実な相場にさらすことは、二人が誓った「息子の学費を絶対に守る」という約束を破る行為に思えたのです。

 

健弥さんは、銀行預金と投資の違いをなんとか伝えようとしました。「銀行に寝かせてもお金は増えないけど、世界中の会社に分散投資すれば、過去のデータから年4%くらいは増える見込みなんだ。この差が、将来の学費に大きく響くんだよ!」

 

しかし、美穂さんにとっての現実は、スマホの画面上のシミュレーションではなく、ママ友との会話や目の前の家計簿にありました。

 

「そんな怪しいことしてる人、私の周りには誰もいないわよ。ママ友の間でも聞いたことない! あんた、変な勧誘にでも騙されてるんじゃないの? 息子の大切なお金は、絶対に1円たりとも触れさせない!」

 

将来の期待リターンや統計上の可能性をどれだけ説いても、美穂さんの「1円でも減る可能性があるならギャンブル」という強固な壁を突き崩すことはできません。健弥さんは、同じ方向を向いていると思っていた妻との間に、あまりにも深い価値観の断絶があることを思い知りました。

 

「家族を想う気持ちは同じはずなのに、どうしてこれほどまでに言葉が届かないんだろうか……」

 

健弥さんは、自分が信じる「合理的な備え」と、妻が守り抜こうとする「現在の確実さ」が、決して交わらない平行線であることを感じ、ただ静かに溜息をつくしかありませんでした。

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