当時52歳の夫婦に忍び寄る「老後への焦り」
「今年の春は少し気楽です」
そう話すのは、高木節子さん(仮名・74歳)。22年前、節子さんと夫の正夫さん(74歳)は、ある焦燥感に駆られていました。
「高齢になると家は借りられない」
「一生家賃を払い続けるのか」
節子さんと夫は、子どもの教育費を最優先にと購入を見送ってきましたが、周囲の同世代はとっくにマイホームを持っています。当時52歳。賃貸マンションの更新を控え、ふと将来が怖くなりました。老後が迫り、やはり家を持っていた方が安心なのでは……そう考えたといいます。
結局、中古マンションを2,800万円で購入。貯金500万円を頭金に入れ、残り2,300万円のローンを組みました。退職金もあるので何とかなる。そう考えていました。
「退職金=ローンの幕引き」とはいかず…
購入当時、月10万円の返済は「今の家賃とほぼ同じ」でした。しかし、人生のステージが変わるごとに、その重みは変わっていきました。52歳時の手取り(夫婦合計)は月45万円でしたが、62歳時では月26万円。年金暮らしになると月21万円になりました。
60歳で、夫の正夫さんは予定通り約1,000万円の退職金を受け取りました。しかし、結果的に、これをそのままローン返済に充てることはできませんでした。
ちょうどその頃、独立した子どもの結婚・出産援助や、自身の親の介護費用が重なりました。また、手元の現金をすべてローンに回してしまったら、病気になった時や、この先生きるための生活費がなくなるのではないかという不安が襲い、一部しか返済できず、月々の支払額はそれほど減りませんでした。
「退職金=ローンの幕引き」というシナリオは、予期せぬライフイベントと、老後への恐怖によって、もろくも崩れ去ったのです。
一方で、建物が古くなるにつれ、マンションの修繕積立金が段階的に値上がりし、気づけば購入時の2倍以上に。さらに、給湯器の故障や水回りのガタなど、持ち家だからこそ発生する維持費が、年金生活の家計をじわじわと侵食していきました。
「年をとるほど苦しくなって、通帳を見ては不安で震え、スーパーの特売品がさらに値引かれるまで待つ毎日。老後の安心のために買った家でしたが、かえって重荷になってしまったんです」
