(※写真はイメージです/PIXTA)

相続税・贈与税の実務において、しばしば問題となるのが相続税法64条1項に規定されている「不当に減少」という概念です。これは、相続税を安くするために、わざと財産を減らしたように見せる行為を禁止するものですが、資産の移動や権利の自由度が高い同族会社では、相続税対策が「不当」だとして否認されるケースも少なくありません。そこで本稿では、相続税法64条1項の趣旨を整理したうえで、実際に争われた2つの判例を通じて、「不当性」がどのように判断されているのかについて検討します。

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【判例②】地上権設定による90%評価減は許されるのか

次に紹介するのは、地上権の設定を利用した土地評価額の大幅な減額の事例です。

 

被相続人Aさん(83歳)は、相続税対策を目的に有限会社甲を設立しました。

 

そのうえで、自身が所有する土地について、地代年額3,684万円・存続期間60年という条件で地上権を設定し、その土地上に自走式2階建ての駐車場を建設して駐車場経営を開始しました。

 

Aさんはこのスキームを活用し、存続期間が50年を超える地上権に「相続税法23条」を適用し、土地評価額を最大90%まで減額することを想定していました。

 

これに対し税務署長は、この地上権設定行為を「相続税法64条1項」に基づき否認。実態は地上権ではなく通常の賃借権にすぎないとして、評価減を20%にとどめて相続税の課税価格を算定しました。

 

のちの裁判でも、裁判所はこの税務署の判断を妥当と認めています。

 

[図表]地上権90%評価減を狙った「土地評価減スキーム」の構造

Aさんのスキームが「不当」と判断された3つの理由

裁判所は、次の3点を不自然・不合理であると指摘しました。

 

1.実態としては賃借権に近いにもかかわらず、「存続期間60年」という地上権設定契約を締結している

2.被相続人が83歳という高齢であり、契約締結後まもなく死亡している

3.駐車場経営の収支や採算性が十分に検討されていない

 

実際、有限会社甲の年間収入は3年間でそれぞれ1,600万円、1,300万円、800万円程度にとどまり、経済合理性を欠く事情として考慮されています。

 

「不当に減少」の判断基準をどう捉えるか

これら2つの判例からわかるのは、「不当に減少」に該当するかどうかは、

 

・取引の形式ではなく実態

・経済的合理性の有無

・当事者の年齢や状況

・相続税対策が主たる目的となっていないか

 

といった事情を総合的に勘案して判断されるという点です。

 

「相続税法64条1項」は非常に強力な否認規定ですが、すべての相続税対策を否定するものではありません。

 

しかし、合理性を欠いたスキームについては「不当」と評価されるリスクが高いことが、判例からもわかります。

 

 

八ツ尾 順一

大阪学院大学 教授

 

 

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