(画像はイメージです/PIXTA)

AIやDXの進展によって、私たちの生活やビジネスのあり方は大きく変化しています。税理士という専門職も例外ではありません。これまで人の手で行われてきた記帳や申告業務は、クラウド会計ソフトや電子申告の普及によって効率化が進み、さらにAIの技術によって自動化されつつあります。そのため、「税理士は将来なくなってしまうのではないか」という不安が広がっています。本記事では、AI時代における税理士の生き残り戦略について考察します。公認会計士・税理士の岸田康雄氏が解説します。

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AI時代と税理士の仕事

AIの進化は、税理士の仕事に大きな変化をもたらしています。たとえば、領収書や請求書を読み取って仕訳を登録する作業は、すでにOCRとAIの組み合わせによって自動的に処理できるようになっています。銀行口座やクレジットカードの明細もシステムに連携され、日々の仕訳が自動生成される時代です。さらに、月次の試算表や資金繰り表の作成もシステムが自動化するため、従来のように人が細かく計算する必要は減りつつあります。

 

また、AIチャットボットによる簡単な税務相談や、AIによるリスク分析によって申告内容の誤りや修正申告の必要性を事前に検知できるようになっています。このように、かつて税理士が担っていた単純で繰り返しの多い作業は、今後ますますAIに置き換えられるでしょう。

 

しかし、AIには限界があります。複雑な税法解釈や個別事情に基づくアドバイスは、依然として税理士の専門知識が必要です。経営分析に基づく改善提案や、顧客との面談を通じた意思決定の支援も、人間にしかできない領域です。制度改正や新しい申告様式への対応も、法律や制度の背景を理解して初めて適切に判断できます。

 

つまり、AIは税理士を完全に代替するのではなく、税理士がより高度で付加価値の高い業務に集中できるようにするためのツールであると言えます。

政府が企業データを集める理由

税務のデジタル化を加速させているもう一つの要因が、政府のEBPM(Evidence-Based Policy Making)です。EBPMとは、政策を場当たり的に立案するのではなく、客観的なデータや証拠に基づいて政策効果を検証し、より合理的な施策を展開する考え方です。

 

政府は税務データや社会保険情報、企業の補助金利用実績などを組み合わせて分析し、税制特例が投資や雇用にどの程度効果をもたらしたか、補助金が生産性向上にどのように寄与したかを明らかにしようとしています。限られた行政リソースを最適に配分するためにも、こうしたデータ分析は欠かせません。

 

さらに、データベースを省庁や自治体間で連携させ、手続きを一元化・簡素化することで、企業側の負担軽減も進められています。

 

このように、政府が膨大な企業データを収集する背景には、透明性と効率性の高い行政サービスを実現する目的があり、その過程で税務のデジタル化が急速に進むのです。

エストニアの事例を紹介

税務の電子化を最も先進的に進めている国の一つがエストニアです。

 

同国では「e-Tax」と呼ばれるオンラインプラットフォームが整備され、企業はIDカードや電子居住権を用いてシステムにログインし、自ら税務申告を行えます。法人税や付加価値税、社会保険の申告から年次報告書の提出まで、すべてオンラインで完結できるため、企業は税理士に依頼せずとも自社で申告可能です。

 

その結果、「エストニアには税理士が存在しない」と語られることもあります。しかし実際には、複雑な国際取引や移転価格の問題、二重課税回避などの高度な税務領域では専門家のサポートが依然として必要です。制度変更やシステムアップデートへの対応も、常に最新知識を持つ専門家の助言が欠かせません。

 

つまり、エストニアの事例は「基本業務は自動化、難しい業務は専門家」という役割分担の明確化を示しており、税理士が完全に不要になったわけではないのです。

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