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「社員のため」に買った“3億円自社ビル”
「社員のためを思って決断しただけなんです」
佐久間社長(仮名/54歳)は、都内で年商6億円規模の広告会社を経営しています。創業から13年、右肩上がりの成長を続け、ともに働く仲間も増えました。売上は過去最高を記録。
「そろそろ自社ビルを持ってもいいころだ」と考えたのは、そんなタイミングでした。「会議室が狭くてお客様を呼べない」「作業スペースが足りない」──そんな社員たちの声も後押しに。社長として、頑張ってくれている社員のため、もっといい環境を整えてあげたいという思いが募ります。
数ヵ月後、築浅のオフィスビルの購入契約を結びました。総額3億円。ローンを組み、社員の希望を反映した“理想のオフィス”が完成したのです。
移転当日。新しいオフィスに足を踏み入れた社員たちは歓声を上げ、SNSには「#新オフィスが神」「#うちの会社最高」という投稿が並びました。その光景をみながら、佐久間社長も「これで社員も会社も、さらに前進できる」と信じて疑いませんでした。
拍手喝采のオフィスで始まった静かな崩壊
新オフィスのお披露目パーティーの日。佐久間社長は、シャンパンを片手に社員たちに囲まれていました。
壁一面のガラス越しに夕日が差し込み、輝くフロアには「最高ですね!」という声が飛び交います。照明のきらめきと笑い声に包まれながら、社長は思わず頬をゆるめました。
──その瞬間までは、すべてが順調にみえたのです。
経理部長に告げられた現実
しかし数ヵ月後。経理部長が青ざめた顔で告げます。
「社長、今月の資金繰り、もう限界です」
報告書をみた社長の胸にざわめきが走ります。ページの隅に並ぶ赤い数字――。
原因は単純でした。賃料がなくなった代わりに発生したローン返済、固定資産税、修繕積立金。さらに「社員のため」と導入した高級コーヒーメーカーやカフェラウンジ、最新のオフィスチェア。理想のオフィスは、まるで金食い虫のようにキャッシュを飲み込んでいました。
「一時的な出費だ」と自分に言い聞かせても、現金残高は静かに減り続けます。社員の笑顔が増えるほど、口座の数字は減っていきました。
それからさらに3ヵ月後。営業部の若手が無邪気に聞きます。
「社長、今期もボーナス出ますよね?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に冷たいものが落ちるのを感じました。“社員のため”のつもりが、社員の未来を壊しかけていたのです。
