「新年度」が、社長の冷静さを奪う理由
3月末の夜。上岡社長(仮名/44歳)はオフィスに一人残り、決算資料を何度もめくっていました。数字は決して悪くありません。赤字でもなく、社員数はむしろ増え、銀行との関係も良好です。客観的にみれば、会社は順調そのものでした。
それなのに、彼の胸の奥には説明のつかないざわつきが広がっていたのです。
「……なにかが、足りない」
窓の外では、年度末特有の慌ただしい空気が流れています。人事異動、組織改編、新しい目標、社会全体が「次のステージ」に向かっているような雰囲気。この季節、経営者は奇妙な感覚にとらわれがちです。カレンダーが変わるだけなのに、人生まですべて一新できるような錯覚に陥ります。
SNSを開けば同業の社長が「海外進出しました」「年商20億突破しました」と成功の報告ばかりが目に入ります。順調な会社を経営しているはずの自分が、なぜか取り残されているような気がしてくるのです。上岡社長も例外ではありませんでした。椅子に深く座り直し、決算書を閉じたあと、ぽつりと独り言を漏らしました。
「全部、やり直したいな」
会社も。そして人生も。そのリセット願望こそが、静かな崩壊の始まりでした。
焦った組織改革
4月1日。上岡社長は朝礼で、新年度の方針を力強く宣言しました。
「今年は、本気で変える。中途半端はやらない」
不採算部門の整理や組織の再編、営業方針の抜本的な変更。経営判断としては、どれも合理的なものばかりです。しかし問題は、その「スピード」と「伝え方」でした。
決断の数は増えましたが、社員への説明は減りました。会議室では誰も反対せず、社員たちは黙ってうなずくばかり。ある幹部が「少し焦っていませんか」と進言しても、社長の耳には届きません。
無料セミナー(会場+オンライン)
【資産運用】3月26日(水)開催
