六本木最寄りビルを構える「誇り」
最寄りは六本木駅。ガラス張りの高層ビルの一角に、そのオフィスはありました。エントランスは静かで、磨き上げられた床が外光を反射しています。窓の向こうには東京タワーがそびえ立ち、夜になれば赤い光が規則正しく瞬きます。
年商11億円、社員42名、三期連続増収。絶頂期にあった伊藤社長(仮名/39歳)にとってこの場所は単なる仕事場ではありません。努力の結晶であり、社会的証明であり、自身の成功を証明する場でした。
しかし、窓の外にみえる東京タワーの景色が日常になったとき、彼の経営判断は健全さを失いはじめます。
「沈黙」を成熟と勘違いした組織の末路
移転直後、業績はまだ悪くなく、むしろ表面上の数字は伸びていました。受注件数が増え、案件規模も拡大していて対外的にみれば、順風満帆だったのです。
ところが、会議室の空気だけは変わっていました。以前はあった小さな反論、慎重な指摘、現場からの違和感……。それらが消えています。毎回、社長が方針を語ると、数秒の沈黙のあとに「異論ありません」と同調する流れ。会議は早く終わるようになり、決定がスムーズになったため、社長はこれを「組織の成熟」と捉えました。しかし、事実は違ったようです。社員たちが「なにをいっても無駄だ」という学習を終えていただけでした。
ある若手幹部が「この大型案件、粗利がほとんど残りません。あといまの人員では回らない可能性があります」と進言した際、伊藤社長は柔らかい口調で「ここでブレーキを踏むフェーズじゃないよね」と返しました。その瞬間、組織として意見を上げ、間違いを自分たちで直す力は、完全に失われてしまいました。
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