「私もお金持ちの仲間入り」…変わっていく交友関係
「住んでいると、まるで自分まで“特別な人間”になったみたいで……」
そう語るのは、都内で事務職として働く26歳の三浦恵梨香さん(仮名)。手取りは20万円弱。ごく一般的な給与水準の会社員です。ですが、彼女が暮らしていたのは、都心の一等地に建つ築浅タワーマンションの高層階。エントランスにはコンシェルジュが立ち、ジムやラウンジも完備されています。
「実は、母方の伯父がその部屋を所有していて。空いているからということで、数年間“身内価格”で住まわせてもらっていたんです」
とはいえ、恵梨香さんが家賃を支払っていたわけではありません。管理費込みで20万円以上かかる部屋を、ほぼ無償で使わせてもらっていたのです。
当初、彼女はその生活を満喫していました。
「職場の人や学生時代の友人に『あのタワマンに住んでるの?』と驚かれたり、“お金持ちの家のお嬢さん”扱いされたりして……ちょっと優越感があったのは正直なところです」
気づけば、交友関係も変わっていきました。住んでいるマンションの住人同士で開催されるワイン会に顔を出すようになり、外車や海外旅行の話題が飛び交う“マダム予備軍”のような友人が増えていきました。
しかし――。
「彼女たちは本当に資産がある人たちで、食事や買い物の感覚も桁が違うんです。私は手取り20万円弱で、生活のために毎月カツカツ。見栄を張ってカードで支払って、あとから冷や汗をかくことも多くて……」
“住んでいる場所”と“自分の経済力”の差に、恵梨香さんは次第に疲れていきました。周囲と比べてしまう自分、肩身の狭さ、つじつまを合わせようとして無理を重ねる日々――。
「あるときふと、『私はここにふさわしくない』と思ってしまったんです。誰にも強制されてないのに、勝手に“その世界の住人”を演じていた。情けなかったですね」
そんなある日、伯父から連絡がありました。
「知人がその部屋に正式に入居したいって言っていて、貸し出そうと思うんだけど……」
彼の申し出は当然のものでした。資産運用の一環として保有している物件なのです。恵梨香さんは感謝を伝え、自ら身を引く決断をしました。
「ほっとした気持ちもありました。やっと“本当の自分”に戻れる気がして」
