「収入はほとんどないんです」と話していた夫婦
「年金しかないんです。収入はほとんどありません」
そう繰り返していたのは、介護施設への入所を検討していた隆一さん(仮名・82歳)と妻の和代さん(仮名・82歳)です。
夫婦はかつて、地方都市で不動産賃貸業を営んでいました。若いころに取得した土地やアパートから家賃収入を得ており、周囲からは“資産家”として知られていたといいます。
ただ、年齢を重ねるにつれて状況は変わっていきました。空室が増え、管理も難しくなり、最終的には物件の多くを売却。表向きには「年金暮らしの高齢夫婦」になっていました。
年金額は夫婦合わせても月十数万円台。和代さんの介護負担も重くなり、夫婦は介護老人保健施設への入所を考えるようになりました。
「収入だけ見れば、たしかに余裕はありませんでした」
ところが、夫婦には売却代金の一部として残していた定期預金や投資信託がありました。名義も分散しており、金融資産の総額は数千万円規模にのぼっていたといいます。
施設入所にあたり、夫婦は食費や居住費の負担軽減につながる「介護保険負担限度額認定」を申請しました。
この制度は、施設入所者などについて、一定の所得・資産要件を満たす場合に、食費や居住費の負担を抑える仕組みです。厚生労働省の介護保険制度の解説でも、介護保険施設入所者等のうち、所得や資産等が一定以下の人には、負担限度額を超えた居住費・食費が介護保険から支給されると案内されています。
しかし、この認定は「年金収入が少ないかどうか」だけで決まるものではありません。預貯金等の基準が設けられており、2021年の見直し以降は、夫婦の場合でおおむね500万円〜1,000万円以下といった段階的な要件が設けられています。さらに申請時には、通帳の写しなど確認書類の添付と、金融機関への照会に対する同意が求められます。
それでも隆一さん夫妻は、「普段使っていない資産だから問題ないだろう」「もう事業収入はないのだから、自分たちは低所得者だ」という認識で申請を進めたといいます。
