「安心しきっていた」老後が揺らぎ始めた日
「退職金もあるし、もうお金のことで大きく悩むことはないと思っていました」
そう話すのは、夫と暮らす恵子さん(仮名・63歳)です。
夫は会社員として定年まで勤め上げ、退職金を受け取りました。預貯金と合わせた金融資産は約5,000万円。住宅ローンもすでに完済しており、生活費は年金でおおむねまかなえる見込みでした。
恵子さんは長年専業主婦として家庭を支えてきました。
「これからは、少しゆっくりしながら暮らしていこうと思っていたんです」
状況が変わり始めたのは、定年後まもなくのことでした。
まず、自宅の老朽化による修繕が必要になりました。外壁や屋根、水回りの交換など、想定していなかった支出が重なり、数百万円単位の出費が発生しました。
さらに、夫の体調にも変化が見られるようになります。
「通院が増えて、医療費もじわじわと増えていきました」
加えて、遠方に住む実母の介護問題も浮上します。施設の利用や生活支援にかかる費用の一部を負担することになり、家計への影響は一層大きくなりました。
当初は「貯蓄があるから大丈夫」と考えていた恵子さんでしたが、通帳の残高が徐々に減っていくことに、不安を感じるようになります。
「5,000万円あれば安心だと思っていたのに、減り始めると、どこまで持つのか分からなくなるんです」
老後資金は一度取り崩しが始まると、基本的には増えることはありません。
「このペースで使っていったら、将来どうなるんだろうと考えるようになりました」
そんな中で、恵子さんが考え始めたのが「もう一度働く」という選択でした。
「最初は現実的じゃないと思っていました。もう60代ですし、ブランクも長いですし」
しかし、家計を見直す中で、「収入を少しでも増やせば、取り崩しのペースを抑えられる」という考えに至ります。
「月に数万円でも収入があれば、気持ちが違うと思ったんです」
