「ありがとうを伝えたくて」海外旅行へ
「ここまで支えてくれて、ちゃんとお礼を言いたいと思ったんです」
そう話すのは、都内で暮らす正樹さん(仮名・60歳)です。
正樹さんは会社員として定年まで勤め上げ、退職金として約2,000万円を受け取りました。住宅ローンも完済しており、今後は年金と貯蓄で穏やかな生活を送る予定でした。
妻の恵子さん(仮名・58歳)は専業主婦として家庭を支え続けてきました。
「仕事ばかりで、ほとんど家のことは任せきりだったので」
その感謝を伝える意味も込めて、正樹さんは海外旅行を提案します。
「二人でゆっくり過ごす時間をつくりたかったんです」
旅行先は東南アジアのリゾート地。到着直後は、久しぶりの非日常を楽しんでいました。
「こんなにゆっくり話すの、久しぶりだね」
食事や観光を楽しみながら、夫婦はこれまでの出来事を振り返っていました。しかし、数日が経つ頃、正樹さんの様子に変化が見られます。
滞在中のある夜、ホテルの部屋で正樹さんは切り出しました。
「ずっと言えなかったことがあるんだ」
その言葉に、恵子さんは戸惑いを覚えたといいます。
正樹さんが打ち明けたのは、30年以上前に作った借金の存在でした。若い頃、転職の合間に生活費が不足し、消費者金融から借り入れをしていたというのです。
「すぐに返せると思っていたんですが、利息もあってなかなか減らなくて…」
結婚後も返済は続き、家計に影響が出ないよう、正樹さんは一人でやりくりしていました。
「言い出せなかったんです。心配をかけたくなくて」
結果的に完済したのは、結婚から十数年後でした。話を聞いた恵子さんは、すぐには言葉を返せませんでした。
「どうして、今になって?」
正樹さんは少し間を置いて答えました。
「これから先、隠したまま一緒にいるのが嫌だったんだ」
