「まさか自分が対象外になるとは」
「正直、言葉が出ませんでした」
そう話すのは、都内で働く会社員の由美さん(仮名・45歳)です。
久しぶりに実家を訪れた際、父・隆一さん(仮名・82歳)から切り出されたのは、財産の分け方についての話でした。
「お前には悪いが、俺の財産は長男に任せることにした」
その言葉に、由美さんは耳を疑ったといいます。
隆一さんは現在、長男夫婦と同居しています。日常生活のサポートや通院の付き添いなどを長男の妻が担っており、生活の多くを頼っている状態でした。
「一緒に暮らして面倒を見てもらっている以上、あちらに多く残したいと思っている」
そう父は説明しました。
由美さん自身は結婚して独立しており、実家とは距離があります。これまで大きな金銭的援助を受けたこともなく、「特別に不公平な扱いを受けている」という自覚もありませんでした。だからこそ、「すべてを長男側に」という話は想定外だったのです。
話を聞くうちに、父の資産状況も明らかになりました。
預貯金や不動産を合わせた総額は約6,500万円。すでに遺言書の作成も進めており、その多くを長男に相続させる内容になっているといいます。
「頭では理解しようとしても、感情が追いつきませんでした」
由美さんは、父の説明を聞きながら複雑な思いを抱えていました。
「介護や同居の負担があることは分かっています。でも、それでも“ゼロ”と言われると…」
その後の会話はぎこちないものになり、久しぶりの帰省は重い空気のまま終わりました。
日本の相続制度では、一定の法定相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の取り分が認められています。子どもが相続人の場合、法定相続分の2分の1が遺留分として保障されます。
今回のように遺言で特定の相続人に偏った配分がなされた場合でも、他の相続人は遺留分侵害額請求を行うことで、一定の金銭的補償を求めることが可能です。ただし、この請求はあくまで権利であり、実際に行使するかどうかは当事者の判断に委ねられます。
「制度があるのは分かっています。でも、それを使うことで家族関係が壊れるのが怖い」
遺留分を請求すれば、金銭的には一定の解決が図れる可能性があります。しかし一方で、長男夫婦との関係や、父の意思との対立を生むことにもつながりかねません。
「父が元気なうちから、こんな話になるとは思っていませんでした」
