「来訪請求」による訪問販売には留意
Q
実家に75歳の母親が1人で生活しています。先日久しぶりに実家に顔を出しましたら、家の外壁がリフォームされていました。結構な代金を支払っていると思い、こっそり母の通帳をみましたら、500万円の引出しがあり、さらに300万円、400万円の引出しが半年間に続けざまにあり、残金がほとんどない状態でした。母に聞いたところ、屋根の改修、外壁の改修が必要だと言われて工事をしてもらった、その代金として支払ったとのことでした。母は1人で工務店に入るような人ではなく、折り込み広告のリフォーム会社に連絡して、風呂・トイレ・台所のバリアフリー・リフォーム工事をしてもらったのが始まりとのことでした。母は業者につけこまれたのではないでしょうか。
A
お母様の家が施工されたリフォームを必要とする状態であったのかどうか、初めて事業者に連絡した際の事情を確認しなければなりませんが、契約書を点検して特定商取引法のクーリング・オフの可否を検討すること、また過量販売を理由とする契約の解除の可否を検討しましょう。
過量販売による解除権の必要性
独居高齢者を狙い打ちにした悪質なリフォーム工事契約の例が社会問題化して、特定商取引法の改正が行われ、過量販売契約等についての消費者の撤回権・解除権が定められました(特商9条の2)。すなわち、不要なリフォーム工事や備品の売りつけを次々に行って多額の代金を手に入れた事案や、業者間で消費者情報を共有して次々と契約を結んで代金を手に入れていた事案が発生して社会問題化しました。設問と類似の事件が実際にありましたし、築8年の住宅にシロアリ防除、屋根裏補強、追加の補強、害虫防除、やり直し工事と次々に1000万円以上の訪問販売をされた事例、A社から床下換気扇を取り付けた後、B社と床下工事を4回計202万円契約し、C社と床下工事39万円を契約した事例、1年余りの間にリフォームやネックレスを8件契約し540万円に上った事例もありました。このような事案の中には民法の詐欺取消しを利用できる事案もありますが、消費者保護に不十分であるため、特定商取引法の改正によって過量販売を禁止し(特商7条3号)、消費者に解除権を認めました(特商9条の2)。これは、消費者側の立証責任の軽減にも配慮したものです。
来訪請求における訪問販売
住居において契約の申込みをし、又は契約の締結をすることを請求した者に対する訪問販売は、特定商取引法4条ないし10条の適用はないとされています(特商26条5項1号)。設問では、お母様が新聞の折り込み広告を見て事業者に連絡を入れて来訪されていますので、特定商取引法7条、9条、9条の2の適用が認められないのではないかが問題となります。
来訪請求の場合を適用除外とした理由は、①購入者側に訪問販売によって商品等の契約をする意思があらかじめあること、②購入者と事業者との間に取引関係があることが通例であることによります。したがって、お母様があらかじめ風呂・トイレ・台所のリフォームをすることが決まっており、それらの箇所のリフォームをしたいからと明確に表示した場合には適用が除外されますが、リフォームを考えているから見てくれないかといった連絡をした場合には契約をする意思を持ってそれを明確に表示したとはいえません。その場合は特定商取引法の適用があります。同法9条のクーリング・オフが可能かどうか検討することになります。
過量販売勧誘の禁止の3類型
過量販売勧誘の禁止は、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品・指定権利の売買契約や、日常生活において通常必要とされる回数、期間若しくは分量を著しく超えて役務提供を受ける契約を対象とし、当該消費者にとって社会通念上必要とされる通常量を著しく超えた契約の勧誘を対象としています(特商7条3号、特商規6条の3)。次の3つの類型があります。①1回の契約で過量となる場合(特商9条の2第1項1号)。②過去の契約の蓄積に加算すると過量販売となる場合の勧誘が該当します。このケースは、同一の事業者が契約を重ねる場合と、異なる業者による契約が行われていてそれに加えることで過量販売となる場合を含みます。③勧誘時に既に過量となっているのに勧誘することも禁止されます(同項2号)。
正当な理由があるときは禁止の対象外です。すなわち、消費者側に日常生活において通常必要とされる回数、期間、分量を超えて契約する必要がある場合は対象外となります。
「過量販売」に関する消費者に不利な特約は原則無効
過量販売による撤回・解除権
⑴過量とは
前記のとおり、日常生活において通常必要とされる分量を著しく超えた契約が対象となります。具体的ケースごとに判断せざるを得ません。日本訪問販売協会は、通常、過量には当たらないと考えられる分量の目安を公表しています。屋根や外壁等の住宅リフォーム全般について、原則、築年数10年以上の住宅1戸につき1工事としています。これはあくまでも目安であり、この目安を下回っても消費者によっては過量となる場合もあります。
⑵撤回・解除権発生の2類型
過量販売における申込みの撤回や契約の解除権は次の場合に認められます(特商9条の2第1項)。①1回の契約で過量となる場合には、それだけで撤回・解除権が認められます(同項1号)。②過去の購入の蓄積に加算すると過量販売となる場合や既に過量販売となっている場合には、事業者が過量となることを知りつつ販売したときに撤回・解除権が認められます(同項2号)。
後者の類型は過量販売となることを知りながら申込みを受け、又は、契約をした場合ですので、消費者側で事業者の悪意(知っていること)を主張・立証しなければなりません。
⑶申込者等に特別の事情がある場合
消費者にとって当該契約をする特別の事情があったときは撤回・解除はできません(特商9条の2第1項ただし書)。この特別の事情は事業者において主張・立証しなければなりません。商品の販売では、親族に配るためであったとか、一時的に同居して生活する人数が増えたためといったことが特別の事情に当たるとされています。
⑷下取り・やり直し工事の悪用
商品の販売において、既に存在する同種商品を下取りして新しく商品を購入させる手法があります。被害に遭った方の関係者が被害者方を訪れて一見しても商品の数にあまり変動がないため過量となっていることに気付きにくいことがあります。前記のとおり、リフォームの事例でも、やり直し工事と称して繰り返し契約している例があり、本人以外には気付かれにくいことがあります。
効果
過量販売を原因とする撤回・解除の効果について特定商取引法9条の2第3項で、クーリング・オフに関する同法9条3項から8項までを準用しています。したがって、消費者が撤回・解除権を行使しますと、事業者は、損害賠償や違約金の請求はできませんし、引取り費用は事業者負担であり、消費者に利得の返還を請求できません。さらに、事業者が申込証拠金その他の金銭を受け取っていたときは返還義務があります。事業者に無償での原状回復義務があります。
過量販売に関する消費者に不利な特約は無効です。
撤回・解除権の期間制限
契約の時から1年で権利を行使できなくなります(特商9条の2第2項)。除斥期間とされています。
過量販売とクレジット契約
リフォーム工事等の代金の支払について信販会社や金融機関との間の立替払契約が利用されることがあります。リフォーム工事等が過量販売に該当する場合、前記のとおり契約者はリフォーム工事等の契約を解除することができますが、信販会社等との間の立替払契約の効力が維持されるのかどうかが問題となります。平成20年の割賦販売法の改正によって、立替払契約(割賦販売法では個別クレジット契約といいます)も契約締結の時から1年以内であれば解除できるとしました(割賦35条の3の12)。信販会社(金融機関)に対し立替払契約の解除を行いますと、割賦金の支払をしなくてもよく、信販会社は契約者に対し、支払を受けた割賦金を速やかに返還しなければなりません(割賦35条の3の12第6項)。また、信販会社は契約者に対し、損害賠償や違約金の支払を請求することはできません(同条3項)。ただし、立替払契約を解除しただけでは、リフォーム工事等の契約は解除されたとはみなされません。したがって、契約者は、リフォーム工事等の事業者に対しても解除の通知をしてください。
【参考文献】
⑴圓山茂夫『特定商取引法の理論と実務〔第3版〕』(民事法研究会,2014)。
⑵消費者庁取引・物価対策課・経済産業省商務情報政策局消費経済政策課編『特定商取引に関する法律の解説(平成21年版)』(商事法務,2010)。
⑶梶村太市ほか編『新・割賦販売法』(青林書院,2012)。