「リフォームの受注」が暴力団活動への協力に!?
Q
暴力団と関係があると噂される会社から、事務所が入っていると噂されるマンション一室の改修工事を請けてほしいと連絡がありました。古くなった箇所を直し、10人前後で会議ができるよう間取りを変更し、玄関ドアの鍵を2つにし、投光器や防犯カメラを複数設置したいとのことでした。
暴力団排除条例(暴排条例)によって暴力団に対する利益供与は禁止されているとのことですが、当社は地元で細々とやっている工務店であり、噂だけで依頼を断ることは抵抗がありますし、また、当社に利益の出る適正な請負代金をきちんといただければ利益供与にならないようにも思います。このような改修工事でも暴排条例に違反するのか教えてください。
A
暴力団活動の助けとなるようなリフォームは受注してはいけません。適正料金を受領して、かつ、古くなったところを修繕するだけであっても、暴力団の活動拠点を整備するという意味で暴力団活動に協力することになるからです。
しかし、契約締結後に暴力団事務所であることを知ってしまった場合や、瑕疵担保責任として補修工事を行う際に暴力団事務所であると知ってしまった場合などは、例外的に違法とならない場合があります。この判断は、個別事情によって異なりますので、暴排条例に詳しい弁護士や警察に相談することが適切です。
1 暴力団排除条例における利益供与の禁止と例外
⑴リフォーム業者が禁止される利益供与
⒜禁止される利益供与の概要
暴力団排除条例は、「規制対象者」への「利益供与」を禁止しています。当該規定は、事業者から規制対象者への利益供与を禁止することで、暴力団との関係を絶とうとする事業者を後押しし、もって、暴力団等の規制対象者への資金流入を阻止するための規定であり、暴力団排除条例の柱となる規定です。当該規定の目的は、暴力団との関係を遮断せんとする事業者を後押しするものであり、事業者規制が主目的ではないため、「規制対象者」への「利益供与」であることについて故意が必要とされています。
⒝規制対象者に該当する者
東京都暴力団排除条例24条1項・2項は、暴力団と「持ちつ持たれつ」の癒着関係にある「共生者」による利益供与を禁止する規定です。同条3項・4項は、「共生者」ほど密な関係にまでは至っておらず、規制対象者と不本意ながら関係を持っている事業者に対し、関係遮断を後押しする趣旨の規定です。現実的には、この後者に当たる事業者がほとんどでしょうから、後者について説明します。
規制対象者とは、「暴力団員」のほか、例えば、「暴対法に基づく中止命令等を受けた日から3年が経過していない者」や、東京都暴力団排除条例24条1項の規定に違反する利益供与をして「勧告」を受けたにもかかわらず、さらに同種の利益供与をして「公表」をされた事業者など、正に「暴力団と持ちつ持たれつの関係にある者」をいいます。東京都暴力団排除条例2条5号に詳しく書いてあります。
⒞利益供与に該当するリフォーム
利益供与とは、金品その他財産上の利益を与えることをいい、贈与等一方的に利益を与える場合はもちろん、請負契約や売買契約等対価的均衡が保たれた双務契約に基づいて契約目的物や役務が提供される場合も含みます。
リフォームの場合、通常は請負契約を締結することとなります。無料又は無料に近い金額で暴力団事務所をリフォームする場合は、当然利益供与に当たります。さらに、対価的均衡の取れた請負代金を報酬として受け取ってするリフォーム工事も、利益供与に当たります。なぜなら、暴力団事務所とは暴力団活動の拠点であって、活動拠点の使い勝手をよくしたり、抗争相手から防御しやすくしたりすることは、暴力団活動を助けることにほかならないからです。警視庁の暴力団排除条例Q&Aのウェブサイトにも明記されています。
個人宅でありながら暴力団事務所のように使われている建物をリフォームすることは、その建物一棟の価値を高めることになります。このようなリフォームは暴力団活動の拠点を整備する行為ですので、利益供与に当たると考えられます。建物の自宅部分に限ってリフォームする場合でも、建物全体としての価値が上がるので利益供与に当たると考えられますが、利益供与に当たらないと考える立場もあり得ると思われます。暴力団員の純粋に個人宅となっている部屋や建物をリフォームする場合は、利益供与に当たりません。
⒟故意が必要であること
利益供与を行っていることについて故意がない場合、利益供与禁止規定に違反したことにはなりません。前述したように、利益供与禁止規定の趣旨が、事業者規制を主目的とするものではないためです。具体的には、相手方が規制対象者であることと利益供与に該当すること、双方の事実を知っている必要があります。
故意の認定は、リフォーム工事の内容から推認されると考えられます。明らかに暴力団事務所への改装と分かってリフォームするような場合、故意がなかったという主張は認められにくいでしょう。
利益供与に該当するが、例外的に許されるケース
⑵利益供与が例外として違法にならない場合
利益供与に該当するものの、例外的に許される場合があります。法令上の義務履行としてする場合、情を知らないでした契約に係る債務の履行をする場合その他正当な理由のある場合です。法令上の義務履行として考えられている具体例は、医療行為や水道の供給などです。リフォームの場合、現実的に考えられるのは、契約締結時には暴力団事務所の改装と分からなかったが、契約締結後・着工前に暴力団事務所の改装であると知ったとき等であろうと思われます。また、リフォーム工事に瑕疵があり、これを修補することや損害賠償義務を尽くすことも、例外に当たると考えられます。
ところで、前回で説明したような暴力団排除条項(暴排条項)を契約書に定めている事業者が、契約締結後・着工前に暴力団事務所の改装であると知った場合、暴排条項を根拠として契約を解除せずにリフォーム工事をしてもよいのか、そのような義務履行は利益供与の例外とされるのか、問題となります。暴力団排除条例の文言を素直に解釈すれば利益供与に該当するものの例外に当たると考えられます。ただし、反社会的勢力排除意識の高まった現在において、次からは受注しない態勢を整えることが必要です。
2 利益供与禁止規定違反による不利益
東京都暴力団排除条例24条3項に定める利益供与の禁止に違反した場合、勧告の対象となります(東京都暴力団排除条例27条)。自主申告制度の適用があり(同28条)、利益供与をしたこと自体には罰則はありません。自主申告制度とは、公安委員会から勧告がなされる前に自主的に利益供与を行ったこと等を申告した事業者には勧告しない制度です。
しかし、勧告された事実は報道されるでしょうから、一定範囲の関係者には利益供与をした事実を知られてしまうでしょう。そして、勧告された事業者が、さらにその後1年以内に、相当の対償のない利益供与をした場合には公表されます(同29条1項5号)。暴力団に利益供与をした事業者であることが公表されると、事業継続はほぼ不可能となるでしょう。
暴力団事務所の内装工事を請け負ったために、暴力団排除条例に基づく勧告がなされた例が、複数公表されています。公表と異なり、事業者名は明らかにされていません。なお、犬塚浩ほか編著『暴力団排除条例と実務対応―東京都暴力団排除条例と業界別実践指針』(青林書院、2014)の巻末資料には勧告例がまとめられており、参考になります。