今回は、リフォーム工事の請負業者が暴力団関連企業というケースの判例をご紹介します。本連載では、犬塚浩弁護士の編著で、髙岡信男弁護士、岩島秀樹弁護士・一級建築士、竹下慎一弁護士、宮田義晃弁護士の共著『リフォーム工事の法律相談』(青林書院)より一部を抜粋し、リフォーム工事の「契約時」における法的な知識について分かりやすくQ&A方式で解説します。

暴排活動が先んじて進められてきた銀行業界

Q

築40年になる木造2階建ての自宅をリフォームしようとして見積りを複数取っていたものの請負代金額がどうしても1500万円ほどの高額なものになり、困っていました。そのようなときに、知人からリフォーム業者を紹介され、すぐに契約するのであれば、それまでに見積りを取っていた業者見積額の7割ほどの1000万円で同じリフォーム工事を頼めるというので、融資を受けられるか銀行に相談しないまま、リフォーム工事の請負契約を締結しました。

 

ところが、契約締結後に融資を求めたところ、銀行から、リフォーム業者が暴力団関係企業であるから融資できないと言われました。しかし、その銀行からは、今回リフォームを頼んだ業者が暴力団関係企業である資料の提供はもちろん、情報提供も一切してもらえません。このままではリフォーム工事代金を払えず、契約違反となってしまいます。どうすればよいでしょうか。

 

A 

リフォーム工事中に、工期までに工事が完成しないことが判明すれば履行遅滞を理由とする契約解除をすることが考えられます。また、例外的に、リフォーム工事中でも、信義則違反を理由として解除できる場合もあります。しかし、いずれにしても、容易に解除できるわけではありません。暴力団相手の事件に詳しい弁護士に委任することが安全です。

 

契約を解消できない場合でも、リフォーム工事に瑕疵がある場合には、損害賠償請求権と相殺することで実質的に一部を解除した場合と同じような結果を導けます。なお、そもそも契約締結時に請負代金を支払えるように準備しなかったことが原因ですので、融資を受けられることを条件とした契約を締結することが重要です。

 

1 設問のような紛争が起きる背景

銀行業界においては暴力団排除条例(以下「暴排条例」といいます)の施行前から、企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針を踏まえ、暴排活動が先んじて進められていました。現在に至っては、暴力団排除条項(暴排条項)のみを根拠として通常預金を解約するまでに至っています。さらに、暴排条例施行後は、暴力団等との関係遮断が強力に推し進められています。このような流れに沿ってか、融資をする際、金融機関によっては、融資する相手のさらにその先が暴力団関係者である場合、融資を断る場合があるそうです。このため、設問のような事態が生じています。

 

請負代金を支払わない場合、注文者は、債務不履行責任を負います。そこで、注文者が債務不履行責任を負わないために、契約を解消することが考えられます。また、契約を解消できない場合でも、工事完成後に請負代金請求を拒絶できる場合も考えられます。以下において検討します。

 

2 暴力団排除条項(暴排条項)による解除

リフォームの契約書に暴排条項が記載されていれば、暴排条項に基づく契約解消が可能です。しかし、暴力団関係企業であることの立証が困難であることをおいても、暴力団関係企業が用意する契約書に暴排条項があるとは思われません。したがって、暴排条項がない場合に契約を解消することを検討する必要があります。

錯誤無効を認めなかった裁判例

3 錯誤無効の主張

⑴錯誤無効の可否

設問のように、契約相手が暴力団関係者でないことを当然の前提として契約している場合、もし相手方が暴力団関係者であれば契約する意思を有していなかったわけですから、相手方が暴力団関係者であることを知らずに契約した者には、この点に誤解があったことになります。そこで、このような誤解が民法上の錯誤無効に当たるとして、契約が無効であると主張することが考えられます。

 

契約相手の素姓についての誤解を錯誤無効とする裁判は、主に、暴力団関係者に融資した金融機関と、当該融資において暴力団関係者であることを知らずに保証した保証会社との間で争われています。

 

⑵裁判例

錯誤無効を認めなかった裁判例(☆1)があります。これは、保証契約は主債務を保証することを内容とする契約であり、問題となった保証契約において保証会社が主債務を保証する意思で保証したことが認められ、主債務者が反社会的勢力関連企業でないことが保証契約の重要な内容であったとはいえない(要素の錯誤に当たらない)と判断したものです。

 

反対に、錯誤無効を認めた裁判例(☆2)があります。これらは、いずれも主債務者が反社会的勢力でないことが前提となっており、また、契約当事者が反社会的勢力でないことを保証契約の内容としていたと判断されたものです。

 

以上のように結論は分かれていますが、いずれの裁判例も、契約締結時の契約当事者が、主債務者の素姓について保証契約を無効とするほどのものとして重視していたか否かという点を問題にしています(判時2217号144頁参照)。

 

設問の場合、リフォームを依頼した方は一般的な消費者に過ぎず、上述した裁判例における保証会社や金融機関のように暴力団との関係を持たないようにする強い動機や公益的な要請があったわけではありません。また、暴排条例における利益供与禁止規定は、事業者に対して利益供与を禁止するものであって、事業者でない消費者にまで利益供与禁止義務を課しているわけではありません。

 

したがって、リフォーム業者の素姓だけを理由とする錯誤無効の主張は認められにくいものと考えます。

請負契約の解除の原則とは?

4 施工中の信義則違反を理由とする解除

⑴請負契約の解除の原則

リフォーム工事は請負契約であり、請負契約における請負人の義務は請け負った工事を完成させることですから(民632条)、請負人は工事を完成させさえすれば、その工事完了前の時点では、原則として債務不履行の問題は生じません。したがって、請負契約で予定された工期の間は、原則として債務不履行を理由とする解除はできないことになります。

 

⑵解除が認められる例外的場合

リフォーム工事は、契約内容に工期を定めるように一定期間継続するものです。また、工事中の施工態様や、施主の追加や変更を全く無視するような請負業者であれば、工事が完成しても契約どおりのものができあがらないことが容易に予想される場合もあり得ます。したがって、一定の場合には、施工中の請負人の態度等を理由として契約を解除して然るべき場合が想定できます。

 

例えば、請負業者の信義則上の付随義務違反(設計図書等の不交付、建築予定地に建てられる建物の高さについて誤った説明、基礎の工法等について無断変更)が信頼関係を破壊したとして、請負契約の解除を認めた裁判例(☆3)があります。

 

他方、請負業者が一般建設業の許可を一時的になくした原因が更新手続を忘れた事務手続上の過失に過ぎないこと、特定建設業の許可なく、請負代金を1億1428万6000円とする請負契約を締結することは建設業違反として罰則まで規定されているとはいえ、建設業法は取締法規であること、許可を有していることが契約上重要な要素とされていなかったこと、施主が解除するに当たって許可を有していないことを問題としていなかったことから、信義則に違反するとはいえないとして、解除を認めなかった裁判例(☆4)があります。

 

設問の場合、通常の相場の7割程度の請負代金額であったというのですから、そのしわ寄せが下請業者や作業員に生じており、それを原因とした工事の遅延が生じる可能性があります。また、施工中にも誤った施工がなされ、そのまま工事を続行しても瑕疵の残る結果となることが判明する場合も考えられます。そこで、施工中に、建築士の方に作業状況と契約内容を照合してもらうなどして、工事内容が契約どおりに完成しないといえる状況になった時点で、契約を解除することが考えられます。ただし、工事中の状況を正確に把握することは難しく、さらに、把握できた状態で解除ができるか否かの判断も難しいといえますので、慎重に判断する必要があります。

 

さらに、建築工事が完成直前の状態にあったものの、実質的に評価して建築工事が未完成であると判断された裁判例(☆5)があります。これは、工程上は完成直前の状態にあったが、原告と被告工務店との間で建物完成前に欠陥工事、契約違反の工事をめぐって紛争が生じ、被告工務店が正式の引渡しをしないまま工事から撤収し、さらに、建物地盤の致命的欠陥、防音室の遮音性能不良、書庫土間スラブの強度不足等の重大な欠陥があるほか多数の契約違反、欠陥部分、未施工部分があり、工事の工程上では終了間際であったとしても、いまだ未完成であるとして、解除を認めたものです。

 

5 同時履行の抗弁又は相殺による対抗

請負契約を解消できないままリフォーム工事が完成した場合であっても、設問のように、複数のリフォーム業者が1500万円程度とするリフォーム工事を1000万円という低い価格で請ける場合、そのしわ寄せは,下請業者に生じ、工期の遅れや、建材のグレードを落とすなどの瑕疵の発生可能性が高まると考えられます。

 

そこで、そのような瑕疵が認められる場合に、請負残代金と瑕疵修補請求権又は損害賠償請求権との同時履行を主張し、工事の完成を求めることができます(☆6)。ただし、瑕疵修補がなされるまでに、請負代金を払えるようにしておく必要があります。

 

また、瑕疵修補請求ではなく、そのような瑕疵を修補するための損害賠償請求権を主張し、これと請負残代金の相殺を主張することも考えられます(☆7)(民634条2項)。相殺が認められた場合、瑕疵が残ったままとなりますが、この部分については、銀行融資を受けられることを確認した上で、別のリフォーム業者と契約して完成させることになります。

 

【判例】

☆1 東京地判平25・4・24判時2193号28頁・金法1975号105頁。

☆2 神戸地姫路支判平24・6・29金法1978号132頁,同判決の控訴審である大阪高判平25・3・22金法1978号116頁、東京地判平25・4・23金法1975号94頁、同判決の控訴審である東京高判平25・10・31金判1429号21頁。

☆3 名古屋地判平18・9・15判タ1243号145頁。

☆4 東京高判平18・12・26判タ1285号165頁。

☆5 東京地判平16・5・27消費者のための欠陥住宅判例第4集13。

☆6 最判平9・2・14判タ936号196頁。

☆7 最判平9・7・15判タ952号188頁。

リフォーム工事の法律相談

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犬塚 浩 髙岡 信男 岩島 秀樹 竹下 慎一 宮田 義晃

青林書院

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