各都道府県の暴力団事務所の改修工事についての規定
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当社は全国に複数の支店を持つ建築会社です。暴力団排除条例により、暴力団事務所の改修工事はほとんど禁止されていると聞いていますが、各都道府県によって条例の表現が異なっており、とりわけ、暴力団事務所の改修工事について特別の規定があったりなかったりして、整理することが大変です。そこで、各都道府県の暴力団排除条例が暴力団事務所の改修工事についてどのように規定しているか、個別に教えてください。
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山形県、福島県、神奈川県、山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、福岡県、大分県及び長崎県の12県においては、暴力団事務所のリフォーム工事も含まれると解される条項が特に設けられています。
一般的な利益供与禁止規定とリフォームを含む特別規定の両方を守るような運用にしておくことが穏当です。
1暴力団事務所のリフォームに特に関連する条例
暴力団事務所とは暴力団活動の拠点となる場所です。また、対立する暴力団から狙われる場所でもあります。したがって、暴力団事務所が存在することは、近隣住民にとって全く好ましくありません。
そのため、暴力団事務所となる建物に関する建設工事等について、特別に規定を設けている条例があります。
宮城県及び埼玉県の暴力団排除条例は、暴力団事務所の建設工事について特に条項を定めていますが、建設工事がリフォームを含むかは不明です。もっとも、含まないとしても、契約相手が暴力団関係者でないか確認するよう努力する義務の規定や利益供与禁止規定があるため、無制約に許されるわけではありません。
山形県、福島県、神奈川県、山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、福岡県、大分県及び長崎県の12県においては、暴力団事務所のリフォーム工事も含まれると解される条項が特に設けられています。
2 リフォーム工事に特に関連する条例の内容
⑴条例が対象としていると解し得るリフォーム工事
福島県、山梨県、静岡県、滋賀県、和歌山県、兵庫県、福岡県及び長崎県においては、建設工事を建設業法2条1項に定めるものとして定めています。建設業法2条1項は、建設工事の意味を、同法別表第1の上欄に掲げられている工事としています。別表第1に掲げられている工事としては、ガラス工事、塗装工事、内装仕上工事、電気通信工事、建具工事、水道施設工事など、リフォーム工事としてなされ得る工事が含まれています。
暴力団事務所の建設工事というと、暴力団事務所の入る建物の新築が連想されますが、新築だけでなく、改築や修繕も含める条例もあります。
山形県においては、建設工事は増改築及び改修工事を含むものとして規定しています。
奈良県においては、新築、改築、移転、修繕又は模様替えの工事(電気、ガス、給水その他の建築設備に係るものを除きます)を建築工事として特に規定を置いています。
大分県においては、建築工事に改修工事を含めて規定しています。リフォーム工事は、室内を修繕・改修するという側面を有します。したがって、多くのリフォーム工事が当該規定の対象となると考えられます。
神奈川県においては、増築、改築又は修繕について、特別に定めが置かれていますが、増築、改築又は修繕という文言からすると、修繕する必要のない状態で、利便性を高めるだけでしかない改修工事といえるリフォーム工事は対象とならず、通常の利益供与該当性の判断となると考えられます。
以上のように、各規定が対象とするリフォームを行う場合、建設工事等について特に定められた規定を遵守する必要があります。
暴力団事務所として使用されないことの確認努力義務
⑵特に明記されている規制内容
⒜建設工事等の禁止
建設工事等(上述したように、この内容は各条例により異なります)を利益供与と同様に禁止する規定があります。山形県、福島県、神奈川県、山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、大分県及び長崎県に、このような規定があります。この場合は、建設工事等に該当すれば利益供与に該当すると考えてよいので、利益供与該当性の判断は分かりやすくなっているといえます。
⒝暴力団事務所として使用されないことの確認努力義務
目的建物が暴力団事務所として使用されないことを確認するよう努力すべき義務を課している条例があります。山形県、福島県、山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県及び大分県です。
実際には、契約書に、暴力団事務所として使用しないことを誓約する条項を入れておき、契約締結時にチェックさせることが簡便です。このような対応をすれば、自動的に、後述する⒟の努力をしたことになります。和歌山県の条例では、「書面により」確認するよう努力することが明記されています。
大分県の場合、軽微な補修工事の場合については、当該努力義務が免除されています。特に明記して除外していることからすると、大分県暴力団排除条例18条における取引相手の確認努力義務も負わないと解する余地があります。しかし、軽微な補修工事といえども、暴力団事務所の効用を高める工事であることは明らかです。また、他の規制(暴力団排除条項(以下「暴排条項」といいます)を含む契約とするよう努力する義務等)を遵守する以上、軽微な補修についてだけ当該義務を除外して運用することは、事業者の事務手続が煩雑になるだけのように思われます。したがって、大分県の場合でも、実際には、全てのリフォームについて、工事する建物が暴力団事務所として利用されるか否か確認するよう努めることになるでしょう。
⒞暴排条項合意努力義務
暴排条項を含む契約を締結する努力義務を課している条例があります。山形県、福島県、山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、大分県及び長崎県の10県です。
⒟暴力団事務所として使用しない旨誓約させる努力義務
山梨県、静岡県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、大分県及び長崎県では、暴排条項合意努力義務と合わせて、暴力団事務所として使用しないことを発注者に誓約させるよう努めるべき義務も定めています。
⒠暴排条項活用努力義務
暴排条項を定めた契約を締結した場合、その暴排条項によって解除できる事態が生じた場合には、当該契約を解除するよう努める義務を負わせている条例があります。福島県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、大分県及び長崎県です。
受注後に暴力団事務所のリフォームであることが分かった時点で解除することは適切なことですが、立証可能性の判断が必要であり、また、弁護士費用など、事業者にとって負担が生じます。
また,契約上解除できるにもかかわらず解除しなかった場合,利益供与禁止規定に違反したことになるのか、それとも例外的に適法となるのか、複雑な問題が生じます(第10回参照)。
したがって、福島県、滋賀県、奈良県、和歌山県、兵庫県、大分県及び長崎県において、暴排条項を規定した契約書を用いるリフォーム業者は、受注後に暴力団事務所のリフォームであることが分かったときには、速やかに弁護士に相談することが適切です。