反社会的勢力による被害を防止するための基本原則
Q
各都道府県には暴力団排除条例があり、暴力団員からリフォームの注文を受けるに当たっては注意する必要があると聞きました。当社が現在そのような依頼を受けているわけではありませんが、大きな建築会社のように細かく定めた契約書を事前に用意しているわけではありません。当社のような小さな会社が、事前に用意しておけることがあれば教えてください。
A
リフォーム工事を受注するときに利用する契約書の中に、不動文字で暴力団排除条項を設けておき、受注時に契約内容を説明する運用を取ることが適切です。暴力団排除条項(暴排条項)は、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会が公表している住宅リフォーム工事標準契約書式に記載されています。
少額の工事で契約書を作らないという場合、発注書や見積書の余白や裏面に、同書式と同内容の暴排条項を設けておくとよいでしょう。
1 暴力団排除条例制定経緯
⑴政府指針の公表
平成15年9月2日、閣議により、「世界一安全な国、日本」の復活を目指し、関係推進本部及び関係行政機関の緊密な連携を確保するとともに,有効適切な対策を総合的かつ積極的に推進することを目的として、内閣総理大臣が主宰する犯罪対策閣僚会議を随時開催することとされました。
当該会議の活動として、平成19年6月19日、企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針(以下「政府指針」といいます)が公表されました。この政府指針は、組織としての対応、外部専門機関との連携、取引を含めた一切の関係遮断、有事における民事と刑事の法的対応、裏取引や資金提供の禁止の5つを基本原則と定めています。
この基本原則中の中の、取引を定めた一切の関係遮断とは、反社会的勢力との取引それ自体を締結しない、また、締結している場合には解消に向けて措置を講じることを内容とするものです。これ以前における暴力団対策とは、暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律という名称の法律が示すように、暴力団からの不当要求に応じないことに重点があったといえます。
反社会的勢力との関係遮断という政府指針が公表されたことは、反社会的勢力に対する国の方針が、根本的に変化したといえます。
⑵暴力団排除条例の制定
政府指針が公表された後、多くの企業は、暴力団との関係遮断に向けた取組として企業体制を整備し、ホームページで関係遮断を宣言し、契約書にはいわゆる暴排条項を盛り込むことが当然となりました。このような動きは、社会における暴排意識を一層高め、地方公共団体における暴力団排除条例の制定につながりました。
まず、佐賀県において、不動産所有者が暴力団に対して賃貸借契約を解除等できる旨を規定した佐賀県暴力団事務所等の開設の防止に関する条例が制定され、平成21年7月1日に施行されました。次に、福岡県において、暴力団排除に関する総合的な条例が全国で初めて制定され、平成22年4月1日に施行されました。その他の都道府県にも暴力団排除条例制定の動きが広まり、平成23年10月1日に東京都と沖縄県で暴力団排除条例が施行されるに至り、これをもって、全都道府県において暴力団排除条例が規定されることとなりました。ちなみに、佐賀県暴力団事務所等の開設の防止に関する条例も、平成23年10月3日に全面改正され、佐賀県暴力団排除条例となっています。
暴力団排除条例に従うリフォーム業者が負う努力義務
2 暴力団排除条例に沿った事前の準備
⑴暴力団排除条例における重要な規定の概要
リフォーム業者を含む事業者は、暴力団排除条例により、反社会的勢力との関係を遮断するために一定の義務を負っています。重要な点は、暴力団関係者との関係遮断努力義務と、暴力団に対する利益供与の禁止です。都道府県ごとに暴力団排除条例が定められているので、いくらか異なる部分がありますが、多くは似通っているので、ここでは、東京都暴力団排除条例を念頭に置いて説明します。利益供与の禁止については、次回、次々回を参照してください。
⑵リフォーム業者が負う努力義務
⒜契約相手等を確認するよう努力する義務
前述したような暴力団排除条例制定経緯からすると、リフォーム業者においても、暴力団排除条例に従うことはもちろん、反社会的勢力排除の姿勢で臨むべきことは当然の時代になっているといえます。
リフォーム業者は、リフォーム工事の契約を締結するに当たり、契約相手等(直接の契約相手のほか、当該契約に関連する他の契約当事者を含みます(東京都暴力団排除条例18条2項2号)。典型的には下請契約の当事者がこれに該当します。)が暴力団関係者でないことを確認するよう努めなくてはなりません(同条1項)。
同条項にいう「暴力団関係者」とは、暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者をいいます(東京都暴力団排除条例2条4号)。暴力団員とは、暴力団の構成員であり、暴力団とは、その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含みます)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体です(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(以下「暴対法」といいます)2条)。
暴力団関係者とされる、暴力団員又は暴力団若しくは暴力団員と密接な関係を有する者(東京都暴力団排除条例2条4号)とは、暴力団又は暴力団員が実質的に経営を支配する法人等に所属する者、暴力団員を雇用している者、暴力団又は暴力団員を不当に利用していると認められる者、暴力団の維持、運営に協力し、又は関与していると認められる者、暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる者です。警視庁の暴力団排除条例Q&Aのウェブサイト(*1)が参考になります。暴力団又は暴力団員と社会的に非難されるべき関係を有していると認められる者とは、相手方が暴力団員であることを分かっていながら、その主催するゴルフ・コンペに参加している者、相手方が暴力団員であることを分かっていながら、頻繁に飲食を共にしている者、誕生会、結婚式、還暦祝いなどの名目で多数の暴力団員が集まる行事に出席している者、暴力団員が関与する賭博等に参加している者などが指摘されています(同ウェブサイトQ7)。
契約相手の確認方法ですが、契約書面や発注書に、暴力団関係者でないことを表明・確約する一文(表明・確約条項)を入れておき、確認を求める方法が簡便です。そして、発注内容、契約相手の態度・外見・言葉遣いから、暴力団関係者と強く疑われる場合には、いったん受注を控え、契約相手やリフォーム対象となる部屋・建物について弁護士に相談しながら調査することも必要です。表明・確約条項は、公益財団法人暴力団追放運動推進都民センターが発行している「暴追東京ねっとわーく37号」に掲載されている条項を利用することが簡便です。インターネットで公表されていますので、容易に入手できます(*2)。
ちなみに、ある程度大きな企業であれば、自社又は同業者間でデータベースを構築し、そこに載っている者であれば関係を持たないようにしています。例えば、全国銀行協会は、公知情報のデータベースを有し、反社会的勢力排除を推進しています。
⒝暴排条項を規定するよう努力する義務
リフォーム工事の契約書を作成する場合には、契約相手が暴力団関係者であると判明した場合等には契約を解除できる条項、いわゆる暴排条項を規定するよう努力する義務が定められています(東京都暴力団排除条例18条2項)。
当該努力義務を負うのは契約書を作る場合に限られていますが、そもそも契約書を作成することなくリフォーム工事を請けること自体トラブルの元ですので、一般社団法人住宅リフォーム推進協議会が公表している住宅リフォーム工事標準契約書式を用いたり、発注書を貰うなどして、可能な限り、契約内容を書面化してから受注するべきです。契約書を作成する以上、暴排条項を記載した契約書用紙や発注書用紙を用いる運用に変更することはそれほどの負担ではありません。ごく簡単な発注書を用いている場合は、リフォーム工事内容と署名欄以外の余白部分は狭く、裏面に印刷せざるを得ない場合が考えられます。しかし、裏面に印刷すると意識しにくいので、暴排条項を規定することを契機として、可能な限り、契約書の表側に暴排条項を記載することが適切です。
【注記】
(*1)http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/sotai/haijo_seitei.htm#Q&A
(*2)http://boutsui-tokyo.com/sjk/network.php