今回は、リフォーム工事における「不実の告知」等に対する取消権制度について解説します。※本連載では、犬塚浩弁護士の編著で、髙岡信男弁護士、岩島秀樹弁護士・一級建築士、竹下慎一弁護士、宮田義晃弁護士の共著『リフォーム工事の法律相談』(青林書院)より一部を抜粋し、リフォーム工事の「契約時」における法的な知識について分かりやすくQ&A方式で解説します。

「不実の告知」と「事実の不告知」とは?

Q

訪問業者に、床下換気用の通風口が少ないが大丈夫ですかと言われて、家廻りや床下を見てもらったところ、床下換気扇を10台設置しないといけないと言われ床下換気扇の機能の説明を受けました。そして、推薦された床下換気扇10台を購入する契約をしました。ところが、知人の建築士に自宅を見てもらったところ、3台もあれば十分と言われました。契約を解消したいのですが可能でしょうか。

 

A 業者が3台で十分と知りながらそのことを伝えずに10台の契約を提案したのであれば、あなたが騙されたと知ってから6か月以内に特定商取引法9条の3により契約を取り消すことができます。また、契約に際し法定の要件を満たした契約書の交付を受けた場合でも契約書を受け取ってから8日以内であればクーリング・オフも可能です。

 

1 不実の告知や事実の不告知による取消権制度

特定商取引法6条は、業者の不当な勧誘を禁止するために、不実の告知や事実の不告知を禁止し、禁止に違反した場合について行政処分や罰則を定めています。不実の告知や事実の不告知について、事案によっては民法96条の詐欺取消しや、消費者契約法4条の取消しが可能なことがありますが、不十分なため、申込者・契約者の救済を広げるべく、申込者・契約者に取消権が認められました(特商9条の3)。

 

2 要件

⑴不実の告知と事実の不告知

勧誘時に不実の告知があったことによって(特商6条1項)、申込者等が告げられたことを事実であると誤認した場合や、故意に事実を告げらなかったことにより(同条2項)、申込者等が当該事実が存在しないと誤認したときは、当該申込者等は契約の申込みを取り消すことや承諾を取り消すことができます(特商9条の3第1項)。

 

理論的には、事業者の不実の告知や事実の不告知と、消費者の誤認さらに申込みや承諾の意思表示との間に相当因果関係が必要ですが、不実の告知等があれば相当因果関係が認められるのが通常です。

 

⑵事例

よく紹介される事例として、不実の告知の例に、シロアリ駆除を行っている業者が、訪問販売において実際にはシロアリがいないにもかかわらず、消費者に対して「この家はシロアリに侵されており、このままでは倒れてしまう。」と告げて、訪問販売を受けた者が自分の家がシロアリに侵されていると思って契約を申し込んだり、契約してしまった場合があります。事実の不告知の例としては、床下換気扇の訪問販売業者が、訪問販売において、その住居には3台設置すれば十分のところを、適正設置台数を告げることなく10台分の契約を提案したことにより、訪問販売を受けた者が適正設置台数を10台と誤認して契約してしまった場合があります。

 

⑶民法や消費者契約法との違い

民法96条の詐欺取消権が認められる場合は、詐欺を行った者に二重の故意が必要であると説明されています。すなわち、相手方を欺罔(ぎもう)して錯誤に陥れようとする故意と、その錯誤によって意思表示をさせようとする故意が必要とされています。しかし、不実の告知等による取消権の場合は業者の二重の故意は不要です。

 

また、消費者契約法の取消権は、重要事項について不実の告知をされた場合や(消費契約4条1項1号)、重要事項又は重要事項に関連する事項について消費者に有利な事項を告げ、不利な事実を故意に告げなかった場合に(同条2項)、取消権が認められています。すなわち、不実告知の対象事項や、事実不告知の対象事項が限定されています。しかし、特定商取引法のこの取消権は契約の締結を必要とする事情に関する事項であり(特商6条1項)、より広い対象となっています。消費者契約法の取消権を有する当事者は消費者に限定されています。善意の第三者に対抗できないことや期間制限は同じです(消費契約4条5項・7条)。

「クーリング・オフ」との重複

3 効果

⑴原

誤認した申込者等は契約の申込みや承諾の意思表示を取り消すことができます。取消しの方法や効果については民法に従います。申込者等が取消権を行使した場合、契約は当初にさかのぼって無効となり、契約に従って履行したものがあれば当事者はそれぞれ不当利得返還義務を負いますので、申込者等は事業者に代金の返還を求めることができるとともに、申込者等は受領した商品があればそれを返還する義務を負います。

 

役務の提供の場合、例えば、リフォーム工事の場合に代金100万円で工事が施工済みのときに、契約者の受けている利益がどの程度であるかはケースバイケースです。第三者である建築士に調査・評価してもらうことになると考えます。

 

特定商取引法9条のクーリング・オフとは重複する場面があります。クーリング・オフは使用利益の返還が不要であることや商品の返還費用は事業者負担であることから、一般的にはクーリング・オフの方が有利と思われます。

 

⑵善意の第三者保護

善意の第三者を保護するために、この取消しは善意の第三者に対抗できないとされています(特商9条の3第2項)。クレジット契約を結んだ場合のクレジット会社は第三者ではありません。当該クレジット契約を取り消すことができます(割賦35条の3の13第1項)。

 

4 期間制限

この取消権は申込者等が追認をすることができる時から(誤認したことに気付いた時から)6か月で時効によって消滅します。また、契約締結時から5年の除斥期間にかかります。

 

5 威迫困惑が対象外とされた理由

特定商取引法6条では、不実告知や事実の不告知だけでなく、威迫して困惑させることも禁止されています(同条3項)。しかし、同法9条の3では取消権の対象とされていません。その理由については次のとおり説明されています。1つには、契約時に威迫困惑があってもクーリング・オフの認められる期間の8日間の間にその状況から脱してクーリング・オフが可能と考えられたこと、次に、8日間困惑状態が続くような事案では民法の強迫を理由とする取消権(民96条2項)が認められると考えられたことによります。

 

【参考文献】

⑴圓山茂夫『特定商取引法の理論と実務〔第3版〕』(民事法研究会,2014)。

⑵消費者庁取引・物価対策課・経済産業省商務情報政策局消費経済政策課編『特定商取引に関する法律の解説(平成21年版)』(商事法務,2010)

リフォーム工事の法律相談

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犬塚 浩 髙岡 信男 岩島 秀樹 竹下 慎一 宮田 義晃

青林書院

リフォームの法律知識満載!!勧誘、契約、施工から引渡しに至るまで、リフォーム工事のフローに沿って設問を起こし、消費者、事業者の双方が陥りがちなトラブルの対処法を平易に解説。クーリング・オフなど消費者保護の解説に加…

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