(写真はイメージです/PIXTA)

医療機関、特に病院では、物価・賃金の上昇を通じて人件費や委託費などが増加している半面、収入の大半を占める診療報酬の引き上げが微増にとどまったことが影響し、経営危機問題が深刻化している。こうしたなか、2025年6月13日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針」では、同じように収入源を報酬に頼る介護、障害福祉も含めた形で、各種報酬の公定価格を引き上げる方向性が打ち出された。本稿では、ニッセイ基礎研究所の三原岳氏が、2026年度予算編成や診療報酬改定に向けた論点について詳しく解説します。

維新との政策協議も影響?

このほか、自民、公明両党と日本維新の会(以下は維新)の政策協議も影響を及ぼす可能性がある。2024年10月の総選挙で過半数を失ったことで、政府・与党は野党との連携を迫られており、2025年度当初予算の国会審議では、維新の協力を仰いだ。その際、「医療費を年間4兆円削減」という目標を掲げる維新の主張に配慮する形で、自民、公明、維新の3党は社会保障改革の協議体を設置することで合意し、2025年3月以降、市販薬(OTC)類似薬の保険適用除外や病床削減策などの議論を重ねた。

 

その後、3党は2025年6月、OTC類似薬の保険適用除外について、「2025年末までの予算編成過程で十分な検討を行い、早期に実現可能なものについて、2026年度から実施する」という方針で合意。さらに、人口減少などで不要になると推定される「約11万床」の削減を目指すとともに、通常国会に提出されていた医療法等改正案を年内に成立させる方向性でも一致した。こうした3党の合意内容に沿って、骨太方針には「OTC類似薬の保険給付の在り方の見直し」「新たな地域医療構想に向けた病床削減」などの文言が入った24

 

24  ここでは詳しく触れないが、地域医療構想とは2017年3月までに都道府県が作成した文書を指す。具体的には、人口的にボリュームが大きい「団塊世代」が75歳以上になる2025年をターゲットに、救急患者を受け入れる「高度急性期」「急性期」、リハビリテーションなどを提供する「回復期」、長期療養の場である「慢性期」に区分しつつ、都道府県が医療需要を病床数で推計。さらに、自らが担っている病床機能を報告させる「病床機能報告」で明らかになった現状と対比させることで、需給ギャップを明らかにした。その結果、全国的な数字では、高度急性期、急性期、慢性期が余剰となる一方、回復期は不足するという結果が出ており、高度急性期や急性期病床の削減と回復期機能の充実、慢性期の削減と在宅医療の充実が必要と理解されている。地域医療構想の概要や論点、経緯については、2017年11~12月の拙稿「地域医療構想を3つのキーワードで読み解く(1)」(全4回、リンク先は第1回)、2019年5~6月の拙稿「策定から2年が過ぎた地域医療構想の現状を考える」(全2回、リンク先は第1回)、2019年10月31日拙稿「公立病院の具体名公表で医療提供体制改革は進むのか」を参照。併せて、三原岳(2020)『地域医療は再生するか』医薬経済社も参照。その後、地域医療構想の目標年次が到来したため、厚生労働省は2040年頃を見通したポスト地域医療構想の議論を開始しており、2025年通常国会に医療法等改正案を提出していた。しかし、会期切れで審議未了となり、秋にも予定される臨時国会に成立がズレ込んだ。3党合意の内容については、2025年6月16日『週刊社会保障』No.3321、同月11日と6日『m3.com』配信記事、同月9日『Gem Med』配信記事などを参照。なお、病床削減に関わる骨太方針の脚注では、3党合意の文言に沿って、「人口減少等により不要となると推定される一般病床・療養病床・精神病床といった病床について、地域の実情を踏まえた調査を行った上で、2年後の新たな地域医療構想に向けて、不可逆的な措置を講じつつ、調査を踏まえて次の地域医療構想までに削減を図る」という方向性が示された。ただ、3党合意で示された「11万床」という数字は骨太方針に記載されておらず、政府・与党としてコミットしている形跡が見受けられない。自民党社会保障制度調査会長の田村氏も「地域の実情を調査して削減可能な病床数が出てくる」「11万床が削減対象ではない」と述べている。

 

しかし、社会保障費の削減を実現しようとすると、負担増や給付抑制が必要になるため、国民や関係団体の反発は避けられない。確かに人手不足が顕著な介護・福祉職員の賃上げについて、2025年6月の3党合意では「機動的に必要な対応を行う」という文言が入っているものの、医療スタッフへの対応は特段、言及されておらず、3党協議の結果も予算編成や報酬改定の議論に影響を与えそうだ。

今後の予算編成論議や改定率の検討に注目

本稿では、医療機関を取り巻く厳しい経営環境や背景を概観した上で、2026年度予算編成や診療報酬改定に向けた動向を検討した。骨太方針の文言を見る限り、報酬引き上げに向けた意向が強く示されたものの、社会保障費の削減に関わる「目安」は維持さいえなか、保険料抑制を重視する文言も併記されており、依然として決着が付いたとはいえない。このため、決着は今後の予算編成論議や改定率の検討に持ち込まれた形だ。

 

一方、予算編成や報酬改定に影響を及ぼす要因を検討すると、本稿で触れたインフレ対応の報酬引き上げに加えて、少子化対策の財源確保や維新との合意など政治的な判断・動向も絡む。このため、関係者の調整は例年よりも難航することになりそうだ。

 

 

【関連記事】

■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】

 

■親が「総額3,000万円」を子・孫の口座にこっそり貯金…家族も知らないのに「税務署」には“バレる”ワケ【税理士が解説】

 

「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】

 

※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2025年6月24日に公開したレポートを転載したものです。

カインドネスシリーズを展開するハウスリンクホームの「資料請求」詳細はこちらです
川柳コンテストの詳細はコチラです アパート経営オンラインはこちらです。 富裕層のためのセミナー情報、詳細はこちらです 富裕層のための会員組織「カメハメハ倶楽部」の詳細はこちらです 不動産小口化商品の情報サイト「不動産小口化商品ナビ」はこちらです 特設サイト「社長・院長のためのDXナビ」はこちらです オリックス銀行が展開する不動産投資情報サイト「manabu不動産投資」はこちらです 一人でも多くの読者に学びの場を提供する情報サイト「話題の本.com」はこちらです THE GOLD ONLINEへの広告掲載について、詳細はこちらです

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録