クーリング・オフのできる「訪問販売の類型」とは?
Q クーリング・オフ制度
太陽光発電システムの訪問販売を受けました。家庭用電力の自由化やクリーンエネルギーに関心があったので、設置契約を結んでしまいました。事業者の話では国や県・自治体の補助金制度があるとのことでパンフレットを見せられ、補助を受けられるのであれば負担も少なくなると考えて契約したのですが、実際には国や県の補助金制度は終了していました。契約後3日目には機器が運びこまれています。契約を解消したいのですが可能でしょうか。
A 訪問販売による契約については特定商取引法のクーリング・オフ制度があります。クーリング・オフができるかどうか検討しましょう。また、補助制度の説明で騙されて契約したのであれば、詐欺による取消しも考えられますが、慎重な検討が必要です。
キーワード
訪問販売、クーリング・オフの要件、動機の錯誤、詐欺による取消し、特定商取引法以外のクーリング・オフ制度、クレジット契約が利用された場合のクーリング・オフ
(クーリング・オフ制度)
訪問販売では、訪問を受けた方が受動的な立場で事業者の言動に左右されて申込みをしてしまうことが多くみられます。そして、後日、履行や解約をめぐってトラブルになることが少なくありません。このような弊害を除去するために、特定商取引法9条はいわゆるクーリング・オフ制度を設けました。クーリング・オフとは、訪問販売を受けた方が無条件に契約の申込みを撤回できること、契約を解消できることをいいます。騙されて申込みしてしまったとか、不要なのに契約してしまったといった理由がなくても、申込みを撤回すること、契約を解消することができる制度です。このクーリング・オフが認められる要件は以下のとおりです。
(クーリング・オフのできる訪問販売の類型)
クーリング・オフが可能なケースは次の4類型です。
⑴営業所等以外の場所において商品の購入契約やサービスの提供契約の申込みを行った場合
典型的には、事業者が自宅に訪ねてきて事業者に対し契約の申込みをした場合に、クーリング・オフが可能です。申込書に署名した場合や、事業者が申込み受理書を置いていった場合でも、さらに申込み証拠金を支払った場合でもクーリング・オフができます。
⑵営業所等以外の場所で呼び止められて営業所等に同行させられて申込みを行った場合や契約をした場合
駅への行き帰りや買い物の際に呼び止められて営業所・説明会場・展示場に連れていかれて、契約の申込みをした場合に、クーリング・オフが可能です。契約の申込みにとどまらず契約をしてしまった場合にも、クーリング・オフが可能です。このような場合にクーリング・オフが可能ですが、いわゆるキャッチセールスで契約まで持ち込む事業者には、永続的な営業所を持たない事業者、特定の営業所を持たない事業者がおり、クーリング・オフの実効性が期待できないことが多いので注意が必要です。
⑶営業所等以外の場所において申込みを行い契約もしてしまった場合
典型的には、訪問を受けて契約の申込みをしただけではなく、契約までしてしまった場合にもクーリング・オフが可能です。契約をした場合とは、契約書を作成してしまった場合だけでなく、事業者が承諾書を置いていった場合でもクーリング・オフが可能です。商品売買の事案ではその場で代金を支払ってしまった場合でもクーリング・オフが可能です。
⑷営業所等以外の場所において申込みを行い、営業所等に戻った事業者から契約締結の返事が来た場合
訪問を受けて契約を申し込んでしまい、事業者が営業所に帰ってから契約をすると連絡してきた場合にも、クーリング・オフが可能です。事業者からの連絡がファクシミリで送られてきた場合、電子メールで送られてきた場合などもクーリング・オフが可能です。
⑸クーリング・オフのできない場合
以上のとおり、訪問販売やキャッチセールスの場合にはクーリング・オフが可能です。しかし、積極的に事業者を探して事業者の営業所等に自発的に入って申込みや契約をした場合には、クーリング・オフはできません。
クーリング・オフの期間は「8日」だが例外もある
(クーリング・オフの期間制限)
⑴期間の制限
法定の要件を備えた申込書を受領した時から、又は、要件を備えた契約書を作成した時から(以下、要件を備えた申込書や契約書を「法定書面」といいます)、8日を経過した場合はクーリング・オフができなくなります(特商9条1項ただし書)。法定書面と認められる要件は厳格です(Q22 参照)。設問のように契約後3日目に設備機器が搬入されたとしても、8日以内にクーリング・オフすることが可能です。リフォーム契約の場合で、契約後5日目に事業者がリフォーム工事を始めた場合でもクーリング・オフが可能です。8日間の起算は書面を受領した日を含んで計算します。期間を経過しているかどうかは事業者側が証明しなければなりません。
⑵期間の制限が働かない場合
⒜事業者が法定書面を交付していない場合は無制限にクーリング・オフが可能です。また、申込書を交付された場合や契約書を作成した場合でも、法定の要件を満たしていない書面であれば、8日の制限は適用されません。すなわち、そのような場合には8日を経過したとしても、いつでもクーリング・オフが可能です。
裁判例には、クレジット契約書には、訪問販売事業者の名称・住所・電話番号・代表者氏名・販売担当者氏名が記載されておらず、注文書控えには訪問販売事業者の名称・住所・電話番号・販売担当者氏名が記載されていたがクーリング・オフに関する事項が記載されていなかった事案で、他の文書の記載をもって補完することができると解すべきではない、したがって、法定の書面の交付があったとはいえないとしたものがあります(☆1)。
⒝さらに、法定書面の交付がある場合でも、事業者が、クーリング・オフを妨害するため、虚偽の説明をしたり、威迫したりしたことによって、8日を経過したときにはクーリング・オフは可能です(特商9条1項ただし書の括弧書)。例えば、事業者が、「特別の契約なのでクーリング・オフの対象外です」と言った場合や、「特に格安にしていますのでクーリング・オフをしない方がお得です」と言った場合に消費者が誤認したときはクーリング・オフが可能です。また、事業者が、「クーリング・オフしたらどうなるか分かってますね」などと言って威迫した場合に消費者が困惑したときはクーリング・オフが可能です。
⒞このような場合でも、事業者が、改めて法定書面を交付し直し、かつ、クーリング・オフについて説明した場合はその時点からクーリング・オフの期間制限が適用されます。法定書面を交付し直すだけでは足りず、「これから8日経過するまではクーリング・オフが可能です」等と口頭での説明を行う必要があります(特商規7条の2)。
⒟クーリング・オフは口頭ではできない旨の特約が書かれている場合があります。後日の紛争防止の趣旨から考えるとクーリング・オフを妨害するものとは言い難いのですが、書面を作成することが困難な消費者、外出が困難で電話等によるしかない消費者がいることを考えますと、事業者は特約違反を主張できないと考えます。
「クレジット契約」をしてしまった場合の対処法
(クーリング・オフの方法)
⑴書面で行うこと
特定商取引法9条1項は「書面により」撤回・解除を行うことができると定めています。経済産業省は書面によらなければならないと説明していますが、法が書面を要求した趣旨は権利関係の明確化、後日の紛争の防止のためと考えられますので、口頭でも明らかにできる場合はクーリング・オフとして有効に扱われます。裁判例は、割賦販売法の時代のものですが、消費者保護に重点を置いた規定であること、後日紛争が生じないように明確にしておく趣旨であるとすれば、明確な証拠がある場合には保護を与えるのが相当であるとして、書面によらない権利行使を否定したものではないと判断しました(☆2)。
通知の方法は、ハガキに書いて郵送しても、自宅に来た担当者に書面を手渡すことでもかまいません。証拠を残すためにハガキや書面の裏表をコピーして保存することが望まれます。口頭による場合は告げたことを証明することが困難ですので、できる限りハガキ等書面で通知すべきです。ファクシミリや電子メールによる方法も考えられますが、事業者が機器を操作して受信日を遅らせていたり、機器が故障していることがありますので注意を要します。
⑵クレジット契約もしている場合
訪問販売において、代金の支払について信販会社や金融機関との間の立替払契約が利用される場合があります。これまで、リフォーム業者が、立替払契約(ローン契約、割賦払契約)の契約書面も持参して、リフォーム工事契約についての書類と同時に立替払契約の書類にも署名押印させることが多々みられました。
このような立替払契約が利用される背景には、高額の代金を設定しても現金の用意のない消費者から契約を取り付けやすいこと、1回当たりの支払額をリーズナブルに見せることで消費者から契約を取り付けやすいこと、リフォーム業者は信販会社(金融機関)から代金を確実に立替払してもらえるというメリットがあることからです。
そして、リフォーム業者とのリフォーム工事契約と信販会社(金融機関)との立替払契約は別個の契約であると考えられるため、平成20年の法改正前は、リフォーム工事契約についてクーリング・オフしたとしても、信販会社(金融機関)に対し支払った金額の取戻しができないため、消費者の保護が不十分でした。
そこで、平成20年に特定商取引法の改正とともに割賦販売法も改正され、代金の支払についてクレジット契約を締結した場合には、クレジット契約もクーリング・オフが可能となりました(割賦35条の3の10)。クーリング・オフ行使期間はリフォーム工事等の契約及びクレジット契約のそれぞれについて判断します。
従前、事業者に対しクーリング・オフを行った場合、契約者は信販会社に支払拒絶の抗弁を行うことができるにとどまりましたが(割賦35条の3の19)、平成20年の法改正により、信販会社に対しクーリング・オフを行った場合、信販会社との当該クレジット契約が解消するとともに、事業者との契約も解消したとみなすことになりました(割賦35条の3の10第5項)。これはクーリング・オフ連動の効果と言われます。信販会社は契約者に対し損害賠償や違約金の請求はできませんし(同条3項)、契約者から受領した既払金も返還しなければなりません(同条9項)。
(発信主義)
申込みの撤回や契約の解除はクーリング・オフの書面を発送した時に効力を生じます(特商9条2項)。民法では意思表示について到達主義を採っていますが(民97条)、消費者保護のため発信主義を採用したのです。
(他の法律のクーリング・オフ制度)
クーリング・オフは特定商取引法以外でも認めている法律があります。宅地建物取引業法、保険業法、各種共同組合法、ゴルフ場等に係る会員契約の適正化に関する法律、特定商品の預託等取引契約に関する法律、不動産特定共同事業法、金融商品取引法があります。
(他の救済方法)
設問で、事業者の説明によって補助金制度による補助を受けられると信じて契約をしてしまったのに、実際は国や県の補助制度は終了していたということです。経済的負担が実質上少なくて済むと思って契約したのであれば、民法で、動機の錯誤による無効や詐欺による取消しを主張することが考えられます。国や県の補助制度が終了していることは事業者として当然知っているはずですから、動機の錯誤や詐欺取消しが認められることが多いと考えられます。
【判例】
☆1東京地判平16・7・29判時1880号80頁。
☆2福岡高判平6・8・31判タ872号289頁。
【参考文献】
⑴圓山茂夫『特定商取引法の理論と実務〔第3版〕』(民事法研究会、2014)。
⑵消費者庁取引・物価対策課・経済産業省商務情報政策局消費経済政策課編『特定商取引に関する法律の解説(平成21年版)』(商事法務、2010)。
⑶梶村太市ほか編『新・割賦販売法』(青林書院、2012)。