(※写真はイメージです/PIXTA)

不要な土地を国が有料で引き取る新しい仕組み、「相続土地国庫帰属制度」。引き取られた土地は国有地として税金で管理されることになるため、国は「誰からでも、どんな土地でも」引き取るわけではありません。本制度を利用できるのは、承認申請権者(人)と申請土地(不動産)について、一定の条件を満たした場合に限定されます。本稿では、「人(承認申請権者)」の要件について詳しく見ていきましょう。平田康人氏(行政書士/宅地建物取引士)が解説します。

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一部が「相続以外で取得した土地」でも、国の引取対象になる?

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【相談内容】

地方にある実家近くの土地を、兄と共有名義で所有しています。共有持分割合は、兄が3/4、私が1/4です。この土地は、8年前に亡くなった父と、家業を手伝う兄が、昔知り合いから共同購入したものでした。購入当時、父と兄の持分は1/2ずつでしたが、父の相続で亡き父の持分を均等に相続したため、現在の持分割合になりました。市街地の中心から離れたこの土地は、周辺も空地や空き家が目立つ地域で、売るにも引き合いがないため、兄と相談し、相続土地国庫帰属制度の利用を検討しています。ただし、土地は共有名義で、私が相続で取得したのは持分1/4のみです。兄については相続等で土地を取得したわけではありません。私と兄は、相続土地国庫帰属制度を利用できるのでしょうか?(58歳・女性)

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⇒回答:兄と相談者(私)が共同申請することを条件として、相続土地国庫帰属申請の承認申請権者となる要件を満たします。※後記<例④>参照

解説:相続土地国庫帰属制度が制定された背景

相続土地国庫帰属制度は、日本各地で増え続ける所有者不明土地の発生予防の観点から制定されたものですが、その背景には、「“意に反して相続した不要な土地”を手放したい」というニーズの高まりがあります。

 

・「遠くに住んでいて利用する予定がない」

・「土地は持っているだけでも費用負担が大きい」

・「放置すると近隣の迷惑になるため管理に手間がかかる」

・「原則、土地は捨てる(放棄する)ことができない」

・「次の相続でも、相続人が不要な土地だけを放棄することはできない」

 

といった状態が続くと、やがて所有者の管理疲れにより、土地が管理されないまま放置され、将来、所有者不明の土地が大量に発生することが懸念されます。また、国や自治体にとっても、所有者不明の使えない土地が増えることは大きな問題になります。なぜなら、国や自治体が公共事業(道路建設等)を行う場合に、所有者調査に費用等の負担や手間がかかるからです。そこで、国が「使えない土地を相続して困る相続人」から土地を引き取って管理することで相続人の負担を減らすとともに、将来の公共的な利活用にも備えられるようにするべく、相続土地国庫帰属制度が制定されました。

相続土地国庫帰属制度を「利用できる人」の要件

相続土地国庫帰属法では、相続土地の国庫帰属承認申請を行うことができる者は、原則「相続」または「相続人に対する遺贈により土地の所有権を取得した人(相続人)」に限定されます(法第2条第1項)。

 

土地を手放したいと考える人のうち、相続をきっかけとしてやむを得ず土地を取得するに至った人については、積極的な土地利用の意向やその土地からの受益もないにもかかわらず、処分もできないまま仕方なく所有し続けている場合が挙げられます。

 

また、遺贈については、受遺者(遺贈を受ける人)が「相続人か、相続人以外か」に分けて考えられています。遺言による贈与である遺贈においては、受遺者は遺言者が死亡したのち、いつでも遺贈の放棄をすることができます。

 

逆にいえば、相続人以外で遺贈を受け入れた人(遺贈の放棄をしなかった人)は、「自らの意思で当該土地の所有権を欲した人」と推測されるため、当該受遺者にまで本制度の承認申請を認める必要性は低いと考えられ、本制度の承認申請者からは外れています。

 

一方で遺贈を受けた相続人は、遺贈の放棄を行ったとしても、相続放棄をしなければ、相続人としての地位に基づき、当該土地を相続する可能性があります。そこで、相続人については、相続を原因とするケースだけでなく、遺贈を原因とする土地の取得のケースについても申請できるものとしています。

相続以外で取得した場合や共有名義不動産でも、相続土地国庫帰属制度は使えるのか?

では、具体的にどのようなケースの人が、承認申請できるのでしょうか? 所有形態を単独所有と共有に分けて見てみましょう。

 

【1.単独所有の場合】

<例①>相続等により所有権の「全部」を取得した所有者のケース

・土地を単独所有する父親から、長男が相続により土地全部を取得した場合

⇒長男は承認申請者になれる。

 

<例②>相続等により所有権の「一部」を取得した所有者のケース

・土地を単独所有する父親から、長男と長女が持分1/2ずつで共同購入したのち、長男が死亡し、長男の持分(1/2)を相続により長女が取得した場合

⇒長女は承認申請者になれる。

※長女が所有する持分1/2は自ら売買で取得しているが、他の持分1/2は相続により取得しているため、相続で取得したとみなす。

 

【2.共有の場合】

<例③>相続等により共有持分の「全部」を取得した共有者のケース

・土地を単独所有する父親が死亡し、長男と長女が共同相続により土地を取得した場合

⇒長男と長女は共同申請を条件に承認申請者になれる。

※帰属承認申請に共有者全員が合意する必要がある。

 

<例④>相続等により共有持分の「一部」を取得した共有者

・友人(第三者)から父親と長男が土地を共同購入し、持分1/2ずつ共有した。その後、父親が死亡し、父親の持分1/2を長男と長女が均等に相続した場合

⇒長男と長女は共同申請を条件に承認申請者になれる。

※長男は持分3/4のうち1/4を、長女は持分1/4を、いずれも相続で取得しているため。

※帰属承認申請に共有者全員が合意する必要がある。

 

<例⑤>相続以外の原因により共有持分を取得した共有者

・友人(第三者)から父親と法人A社が土地を共同購入し、持分1/2ずつ共有。その後、父親が死亡し、父親の持分1/2を長男が相続した場合

⇒長男と法人A社は共同申請を条件に承認申請者になれる。

※長男の持分1/2は相続で取得しているため、相続で取得したとみなす。

※帰属承認申請に共有者全員が合意する必要がある。

 

以上の例①~⑤に共通するのは、土地所有権の全部または一部に、相続等を取得原因とする所有者または共有者が存在し、全員が合意・申請することが要件となっています。

相続登記がされていない場合の申請

相続等で土地の所有権を取得した相続人名義へと相続登記が完了していればよいのですが、相続登記が未了の場合でも承認申請をすることは可能です。その場合、申請時に以下の「相続人であることを証する書面」を添付する必要があります。

 

<相続人であることを証する書面>

・亡くなった方の出生から死亡までのすべての戸籍全部事項証明書、除籍謄本または改製原戸籍

・亡くなった方の本籍地の記載がある除かれた住民票または戸籍の附票

・相続人の戸籍一部事項証明書

・相続人の住民票または戸籍の附票

・遺産分割協議書(相続人全員の印鑑証明書を含む)

承認申請者たる地位を承継した場合の手続き

本制度の承認申請から負担金納付までの間に、申請土地の所有権の全部または一部を取得した者は、その取得の日から60日以内に限り管轄法務局長に申し出て、承認申請者の地位を承継することができます(規第12条第1項)。承継の原因として、相続等を原因とした包括承継、売買等を原因とした特定承継のいずれでも地位の承継は可能です。

 

承継の方法は、所定の届出書と添付書類(本制度の承継者に該当することを証する書面)を期限内に提出することによって行われます。

 

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【法令等の表記】

・法(相続土地国庫帰属法)

⇒相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律

 

・規(相続土地国庫帰属法施行規則)

⇒相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行規則

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平田 康人

行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表

宅地建物取引士

国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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