(※写真はイメージです/PIXTA)

しばしば問題となる「土地の境界」の問題。隣地から自分の土地への越境物を見過ごしてしまうと、大変なことになるのをご存じでしょうか。平田康人氏(行政書士/宅地建物取引士)が解説します。

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「隣地からの越境物」を黙認・放置すると大変なことに!

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【相談内容】

私は、6年前に母から相続した実家に住んでいます。実家は、幅員4m以上の南側道路(公道)に面していて、東と西に1軒ずつ、北側に2軒の隣地と接しています。

 

築40年以上になる建物は、これまで定期的に手入れをしてきたのでこの先も十分住める状態ですが、隣地との関係で越境物が気になっています。

 

越境は、東側隣地からはブロック塀の一部が、北側隣地からはひさしの一部が、私の所有地に越境しています。逆に、私の所有地上にある樹木の枝木の一部が、北側隣地に越境しています。気にはなりますが、日常生活に支障がなく、北側隣地の所有者からも枝木の剪定を請求されていません。このまま、何もせずに放置しても問題ないでしょうか?(59歳男性)

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⇒回答:現状のまま放置して、東側と北側所有者の取得時効が完成すると、相談者の土地の一部の所有権が喪失することになります。また、北側所有者から所有権の妨害排除請求権により、相談者側の枝木の剪定を請求されることがあります。

解説:「所有権の妨害排除請求、取得時効」による財産価値の棄損

遺産分割の結果、ある相続人が取得した財産に瑕疵がある(当然あるべき価値を有していない)とき、その損失分を、他の相続人全員が具体的相続分の割合で負担して、共同相続人間の衡平を図ることを目的とするのが、「共同相続人間の担保責任」制度です。

 

そして、遺産のなかで、特に瑕疵を含む可能性が高いのが不動産です。原則、不動産は四方を道路や他人に囲まれて接しているため、所有権が及ぶ範囲についてのお互いの主張が食い違うことで、紛争に発展することは頻繁に起こります。

 

不動産に含まれる瑕疵のなかで、不動産売買でも頻繁に問題となるのが、相隣関係における「越境」です。越境とは、工作物などが境界線を越えて侵入している状態のことで、自分のものが隣地へ侵入している「越境」と、隣地から越境されている「被越境」の2つに分けられます。主な越境物の例として、次のようなものがあります。

 

・建物の一部(屋根、ひさし、雨樋、出窓、室外機など)

・外構構造物(ブロック塀やフェンス、土間コンクリートなど)

・樹木の枝木や根

・地中埋設物(水道管、ガス管、外構構造物の基礎、隣地排水が流入する排水桝など)

・上空越境(電線や電話線、引込線、電柱金具など) ※第三者による被越境

 

自分の土地から隣地に対して越境物がある場合、所有権に基づく妨害排除請求権により、隣地所有者から越境物の撤去を求められることになります。逆に、隣地から自分の土地に対して越境物がある場合、越境物の所有者に対し、同様に越境物の撤去を求めることができますが、撤去を求めず放置すると、越境物の所有者(占有者)に後述する取得時効が成立して所有権を喪失することで、「当然あると思っていた財産価値が棄損する」ことになります。

「越境」の判断は、不動産のプロでも難しい

越境があるかどうかを確認するには、前提として、隣地との境界が確定している必要があります。そのうえで、境界線を基準として越境の有無を確認することになりますが、一見してわかる越境もあれば、じっくり見ないとわからないような越境もあります。また、じっくり見ても「これは越境といえるのか?」と、程度によっては判断に迷うケースもあります。

 

一般的に、不動産売買などで問題となる被越境は、越境物の出幅が境界線から1cm以上を問題とするケースが多いようですが、買手によっては、ミリ単位の被越境も是正を要求される場合もあります。そのため、不動産取引を仲介する不動産のプロでも、越境の見落としや見誤りから、取引後に越境が原因で紛争になるケースも少なからずあります。

 

目視では限界があるため、通常は土地家屋調査士に測量・境界確定作業を依頼する際に、越境図面を作成してもらうなど、測量器具による越境確認を依頼することになります。

「隣地からの越境(被越境)」を放置するリスクとは?

隣地からの越境があったとしても「生活に支障がなければそのまま放置してもよいのでは」と思うかもしれませんが、それは間違いです。被越境の状態を放置すると、越境物の所有者(占有者)に取得時効が成立することで、土地の所有権を失うことがあります。

 

取得時効とは、たとえ他人の不動産であっても、一定期間、不動産を占有し続けることで、その不動産の所有権を取得することができる制度です。取得時効には、占有期間が10年間で完成する「短期取得時効」と20年間で完成する「長期取得時効」があります。

 

これらの取得時効について、民法は以下のように規定しています。

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◆第162条(所有権の取得時効)

Ⅰ 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。

Ⅱ 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

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上記条文のとおり、短期取得時効と長期取得時効に共通するのは、以下の3つの要件です。

 

①「所有の意思をもって(自分のものとして)」

②「平穏に(暴力などの争いがなく)」

③「公然と(隠すことなく)」

 

さらに、短期取得時効の完成には、これら3つに加えて、④「実際に占有を開始した時点で自分の不動産であると信じ、そう信じることについて過失がないこと」が要件になります。

 

短期では10年、長期でも20年で取得時効が完成すると、占有者が時効の援用により越境物が占有していた部分の所有権を取得し、本来の所有者が所有権を失うことになります。

 

そのため、不動産売買で融資を利用する場合でも、金融機関からの越境に対する見方は厳しく、融資利用不可によって売買不成立となり、売却機会を逸することも起こります。

「取得時効」で所有権を失わないための対策

隣地からの越境(被越境)があった場合の対処法として、次の2つがあります。

 

1.越境を解消する(越境状態を無くしてしまう)

たとえば、越境物が、室外機など動かせるものは移動させ、土間コンクリートなど削れるものは斫り、枝木などは剪定する(隣地側に剪定請求し、応じない場合は当方で剪定)など、物理的に敷地内の被越境物を無くしてしまう対策です。また、実際に移動や斫りができない場合(屋根、ひさしなど)は、越境部分の土地を分筆して、越境物の所有者に譲渡(有償または無償)することでも解消できます。ただし、越境部分の土地の譲渡で建蔽率や容積率など建築計画に影響する場合は、譲渡後の土地面積で計画を練り直す必要もあります。

 

2.「将来、越境物を撤去する旨の覚書」を締結する

越境物が屋根の一部など、今すぐに削って越境部分を解消することが現実的に難しい場合、越境物の所有者が、越境物の将来建替え時などに、今ある越境状態を解消する旨を約定する覚書を、越境物の所有者と越境された土地所有者が締結します。覚書の締結は「承認」にあたるため、取得時効の進行は承認時に止まり、それまでの時効期間はリセットされて再スタートになる効果があります(時効の更新:民法第152条)。

 

覚書の内容には、次の内容を記載します。

 

①越境物が「越境している事実」※「誰が所有する何が越境しているか」具体的に記載

②越境の事実を「双方の所有者が確認した」こと

③越境物の所有者が「将来の建替え時などに撤去・解消する」こと

④越境された土地の所有者は、③の時期まで越境物の撤去を猶予すること

⑤双方とも土地や建物を第三者に譲渡した時は新所有者に本覚書内容を引継がせること

「覚書」で越境対策する場合の注意点

覚書による越境対策をする場合、以下のことに注意する必要があります。

 

1.再度の取得時効の完成

覚書の締結により「時効の更新」となりますが、覚書締結時からさらに20年が経過すると、再び長期取得時効が完成してしまいます。時効の完成を阻止するには、20年ごとに覚書を作成して、越境の事実を確認するなど越境物の所有者から「承認」を得る必要があります。

 

2.第三者承継の効力

覚書内容の上記⑤(第三者承継)を第三者(新所有者)に承継させる規定は、当事者である「越境物の所有者」と「越境された土地の所有者」を拘束しますが、売買等で取得した新所有者は当然に拘束されるわけではありません。つまり、各当事者は第三者に承継させる義務を負っているだけで、第三者である新所有者が同意しない限り、承継されないことになります。そのため、各当事者が売主(旧所有者)として第三者に売却するときは、「覚書上の義務の承継」が売却条件であるとして、新所有者がこの義務を承継する旨を不動産売買契約書に規定するか、別途、新所有者との間で合意書を締結する必要があります。

終活で行っておくこと

終活として、下記について実施するようにしましょう。

 

●相続不動産に「越境物、被越境物」が無いか調査する。

 

●越境がある場合、自ら解消するか、隣地と覚書を締結する。

 

●被越境がある場合、越境物の所有者に、越境物の解消又は覚書の締結を求める。

 

●相続人となる者に覚書の内容と注意点を伝えておく。

 

 

平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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