(※写真はイメージです/PIXTA)

ある相続人が取得した財産に瑕疵(当然あるべき価値を有していない)が判明した場合、その損失分を他の相続人全員に相続分の割合で負担させることができます(共同相続人間の担保責任)。公正な規定である一方で、相続人間の紛争を引き起こす要因にもなり得るため、悩ましい問題でもあります。平田康人氏(行政書士/宅地建物取引士)が解説します。

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相続人間の衡平を図る「共同相続人間の担保責任」という制度

相続の際の遺産分割によって、ある相続人が「瑕疵(かし)」のある(当然あるべき価値を有していない)相続財産を取得したときには、その損失分を他の相続人全員が具体的相続分の割合で負担して、相続人間の衡平を図ることになります。それが「共同相続人間の担保責任」の制度です。この制度は民法第911~914条に定められています。

 

瑕疵とは、法律上の何らかの欠点や欠陥のことをいい、瑕疵がある状態とは、本来あるべき品質や数量などが備わっていない状態のことで、次のようなケースをいいます。

 

(1)財産の全部又は一部が、実は他人の所有であった

(2)財産の数量が不足していた

(3)財産の一部が滅失していた

(4)財産に用益権や担保権など他人の権利による制限があった

(5)財産である債権の債務者が無資力であった

(6)財産に隠れた瑕疵があった

 

たとえば、相続した不動産の一部が他人のものだった、他人の権利が付着していた、土地の面積が著しく不足していた、土地や建物に欠陥(土壌汚染や白アリ被害など)があった、相続した貸金債権が債務者の破産等により回収不能…といった場合です。

 

このような事態が起こると、瑕疵のある財産を取得した相続人が不測の損害を被ることになって、他の相続人との比較で不公平になってしまいます。そこで民法では、分割された遺産に瑕疵があった場合について、以下のように規定しています。

 

◆民法第911条(共同相続人間の担保責任)

「各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責任を負う。」

 

◆民法第912条第1項(遺産分割によって受けた債権についての担保責任)

「他の共同相続人が遺産分割によって受けた債権について、各共同相続人はその相続分に応じて、分割時における債務者の資力を担保する。」

 

◆民法第913条本文(資力のない共同相続人がある場合の担保責任の分担)

「担保の責任を負う共同相続人の中に償還する資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力がある者が、それぞれの相続分に応じて分担する。」

 

規定の趣旨は、遺産分割を相続人相互が自己の持分を譲渡し合うものとすると、遺産分割は「売買・交換」に類似しているため、相続人が遺産分割により得たものや権利に瑕疵がある場合に、他の共同相続人に売主と同じ担保責任を負担させることで、相続人間の衡平を図ろうとしたものです。

共同相続人間の担保責任の期間制限は、瑕疵を知ってから1年間

ここで問題になるのが「共同相続人間の担保責任」が売主の担保責任に準じるとする場合、遺産に瑕疵があれば、代金減額や損害賠償請求、遺産分割の解除ができるのか、という点です。

 

このうち、遺産分割の解除について判例は、法的安定性の観点から一旦成立した遺産分割は有効であり、遺産分割の解除ではなく、瑕疵に基づく損失額は、他の相続人がその具体的相続分に応じて金銭的に解決する見解が有力となっています(最高裁平成1.2.9判決)。

 

ただし、瑕疵のある相続財産が遺産全体の大半を占めるなど、瑕疵の程度が重大で、瑕疵があることで遺産分割の目的が達成できない場合は、担保責任に基づく遺産分割の解除ができる可能性も否定しないとの見解もあります。

 

また、代金減額については、金銭支払いによる代償分割などの場合で可能となります。

 

たとえば、相続人Aが3,000万円の不動産を取得し、相続人BとCにそれぞれ1,000万円の代償金を支払ったあと、不動産に隠れた瑕疵が発見され、半分の時価1,500万円と評価された場合、相続人Aは相続人BとCに対し、各500万円の減額を請求することになります。

 

さらに、損害賠償請求についても可能となります。たとえば、相続人Aが取得した建物に隠れた瑕疵があり、補修費用に600万円かかった場合、相続人Aは相続人BとCに対し、各200万円ずつの損害賠償を請求することになります。

 

なお、共同相続人間の担保責任の期間制限は、瑕疵を知ったときから1年間となるため、この期間内に他の相続人に対して、担保責任を追及する旨の通知をする必要があります。

遺言による「担保責任の排除・変更」は認められている

「共同相続人間の担保責任」の規定がある以上、なんらかの対策を講じておかなければ、遺産の瑕疵を巡って、相続人間に紛争の芽を残すことになります。

 

そこで、以下の2つの対策を検討することになります。

 

1.遺言で「担保責任の免除・変更」をしておく

民法第914条では、共同相続人の担保責任規定(民法第911条、912条、913条)にかかわらず、被相続人の意思を尊重し、遺言によって担保責任を排除・変更することを認めています。

 

◆民法第914条(遺言による担保責任の定め)

「前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、適用しない」

 

この規定により、遺言によって、次のような意思表示をして対策できます。

 

(1)担保責任を全部免除する

≪遺言の文例≫

⇒「瑕疵があっても〇〇と△△は担保責任を負担しないものとする。」

 

(2)特定の相続人に負担させる

≪遺言の文例≫

⇒「瑕疵があったとき〇〇が全ての担保責任を負担するものとする。」

 

(3)負担分を変更する

≪遺言の文例≫

⇒「…担保責任を負担する。但し、妻〇〇に負担の資力がないときは、長男△△と長女□□が、妻〇〇が負担できない部分を相続分に応じて負担するものとする。」

 

しかし、「遺産に瑕疵があっても相続人間で揉めてはならない」など、遺言者の意思は表示できるものの、その遺言によって、「遺産の瑕疵を受忍した相続人」と「その他の相続人」との不公平が解消されないことで「わだかまり」が残り、形を変えた紛争が将来生じるなら、それは解決とはいえません。そこで、遺産の「瑕疵そのものを物理的に解消(除去)する」など、根本的な解決も必要になってきます。

 

2.相続不動産の瑕疵を物理的に解消(除去)しておく

遺産の中で、瑕疵を含む可能性が高いのが不動産です。たとえば、次のような場合です。

 

●測量や境界確定がされておらず、相続後、隣地と揉めたり、面積が減少する可能性がある。

 

●隣地からの越境(被越境)や隣地への越境があり、時効取得や所有権侵害で揉める可能性がある。

 

●相続した土地が再建築不可であったため、建替えや大規模リフォームができない。

 

これらは一例ですが、瑕疵の多くは、相続してから売却や建替えのために不動産会社や建築士に相談した時点で、さまざまな不具合に初めて気づくことになります。そうなると、当然あるべき価値が棄損していることから、共同相続人間の担保責任の問題が浮上してきます。

 

これらの瑕疵は、土地・建物の登記簿謄本や固定資産税評価証明書だけでは判断できず、現地から瑕疵の可能性に気づいて確認するしかありません。

 

相続前にできる不動産対策は、不動産を調査することで瑕疵の有無を明らかにして、解消(除去)できる瑕疵であれば解消し、解消が難しい場合は、別の不動産に買い替えるか、売却して現金資産として残すなどを検討することになります。また、どうしても不動産を手放したくない(手放せない)場合は、瑕疵の存在や内容を明らかにして、瑕疵を考慮したうえで遺産分割を行うことになります。

 

 

平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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