なにかの間違いでは…受け継いだ実家不動産、「建て直し不可」との指摘に愕然。50代男性を襲った〈相続の悲劇〉【行政書士が警告】

なにかの間違いでは…受け継いだ実家不動産、「建て直し不可」との指摘に愕然。50代男性を襲った〈相続の悲劇〉【行政書士が警告】
(※写真はイメージです/PIXTA)

実家不動産を相続した方のなかには「建物を建て直して住もう」と考えている方もいるでしょう。しかし、該当の土地が建築基準を満たさず「建て替え不可」となっているケースもあるため、注意が必要です。平田康人氏(行政書士/宅地建物取引士)が解説します。

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相続した実家敷地、建築基準を満たさず「建て替え不可」!?

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【相談内容】

父から実家を相続しました。実家のある土地は、もとは一団の土地から分筆されたものです。一団の土地は、祖父の代に購入したものですが、その後、父が受け継いで実家を建てるまでの間、近所の方への分筆・譲渡を繰り返し、現在に至っています。

 

現在の実家の敷地は、いわゆる「旗竿地」(図表)で、細い通路で道路に通じていますが、通路部分の両端には隣地の塀が建ち並んでいます。

 

生前、父からは「建て替えができるだけの通路幅(2m)は残しておいた」と聞かされていました。しかし、現地をよく見ると、通路部分の途中で隣地塀の基礎部分の一部が境界線を越えて越境しており、そこだけ通路幅が狭くなっています。

 

[図表]旗竿地の例

 

道路に面している間口が2m以上あるものの、現地を見た知り合いから「これでは建築基準法上の接道義務を満たしていないのでは?」と指摘され、大変驚いています。将来の建て替えに影響があるのでしょうか?(57歳男性)

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⇒回答:建て替えに影響があります。旗竿地の場合、一部でも通路幅が2mを下回る場合は接道義務を満たしたことにならず、建て替えできない「再建築不可」の不動産となります。接道義務を満たすには、隣地と交渉して越境部分を削らせてもらって必要な間口を回復させるなど、通路部分のすべてで「有効間口2m以上」を確保する必要があります。

解説:「再建築不可」による財産価値の棄損

遺産分割の結果、ある相続人が取得した財産に瑕疵がある(当然あるべき価値を有していない)とき、その損失分を、他の相続人全員が具体的相続分の割合で負担して、共同相続人間の衡平を図ることを目的とするのが、「共同相続人間の担保責任」制度です。そして、遺産の中でも、瑕疵を含む可能性が特に高いのが不動産です。

 

不動産は四方を道路や他人に囲まれていますが、長い年月の経過によって、周辺状況は常に変化します。たとえば、周囲の土地が売買や相続などで分筆や合筆を繰り返す、大きな屋敷が分割されて数戸の新築住宅が建設される…といったケースです。周囲の土地の所有者が次々に入れ替わり、それぞれの土地に変更を加えることで、不整形地や道路に通じていない土地が生じることがあります。

 

その結果、建築基準法や条例に定められた建築基準を満たしていない土地になってしまうと、その土地は「再建築不可の不動産」となり、不動産の価値は一気に暴落します。

 

再建築不可とは、建物を新しく建築することができないことをいいます。再建築不可となる要因はいくつかありますが、それらの要因を解消しなければ、通常の土地利用はできません。たとえば、現況が更地の場合、建物を建てることができず更地のままの保有を強いられたり、本事例のように建物が建っている場合、既存建物が老朽化していても建て替えたり、一定規模以上のリフォームはできません。建て替えができず老朽化した建物を放置すると、近年の異常気象により、建物の一部が飛散して人や物に損害を与えたり、地震で建物が倒壊したり傾くことになります。

 

本件相談の場合、実家が「再建築不可」の不動産であることを誰も認識せずに相続が発生し、遺産分割がされた場合、実家は「当然あると思っていた財産価値」が棄損していることから相続人間に不平等が生じ、「共同相続人間の担保責任」の問題が浮上します。

「再建築不可」となる要因

再建築ができるか否かの分かれ目は、建築基準法第43条で定める接道義務をクリアしているかどうかにかかってきます。

 

接道義務とは、都市計画区域と準都市計画区域内に限り適用される規定で、「建築物の敷地が、建築基準法で定める道路に2m以上接しなければならない」とするものです。規定の趣旨は、緊急車両の通行や災害時の避難路を確保するためのもので、街づくり全体の観点からも重要な規定になります。

 

不動産が再建築不可となってしまう要因には、主に次のようなケースがあります。対策と併せて見ていきましょう。

 

(1)「旗竿地(はたざおち)」で接道間口が不足

旗竿地とは、土地の形状を「旗」と「旗竿」になぞらえた土地のことで、「路地状敷地」ともいいます(図表1参照)。

 

路地状敷地は、建物が建てられる「有効宅地部分」と、有効宅地部分と道路をつなぐ「路地状部分」から成り立ちます。建築基準法上の接道要件を満たすためには、接道間口が原則2m以上必要となります。ただし、各自治体の条例では、路地状部分の奥行距離や建築する建築物の用途(共同住宅など)によって、必要間口を3m以上とするなど、より広い間口を基準とする規定を設けているため注意が必要です。

 

<対策>

接道義務を満たすための必要間口が足りていない場合、不足分について、隣地から「買取るか、借りるか、敷地の一部を交換するか」などの交渉が必要になります。また、隣地所有者の同意を得たうえで敷地設定※1をすることでも建て替えが可能になる場合があります。

 

※1 敷地設定:再建築不可物件などの建て替えのために、他人の土地を自分の敷地として建築確認申請すること。建築基準法では、隣地所有者の同意なしでも建築確認申請することが可能であるが、後日隣地とのトラブルを回避するため、実務上では事前同意を取ることが多い。

 

(2)「袋地(ふくろち)」で道路に面していない

袋地とは、他の土地に囲まれて公の道路に接していない土地で、接道義務を満たしません。

 

<対策>

幅2m以上で、隣地を「買取るか、敷地の一部を交換するか、囲繞地通行権を主張するか、通行地役権を設定するか」など、隣地交渉が成立することで接道義務を満たせます。通行地役権の設定では、便益を受ける自分の土地を「要役地」、便益を提供する他人の土地(隣地)を「承役地」といいます。囲繞地通行権は、法律上当然に認められる権利ですが、通行地役権は、要役地と承役地の双方の所有者による契約で設定できることになります。

 

(3)「建築基準法上の道路」に面していない

建築基準法上の道路とは、建築基準法第42条に規定された道路のことで、建築基準法第43条(接道義務)では、4m以上の建築基準法上の道路に2m以上接しなければならないと定められています。

 

<対策>

前面道路が私道の場合、特定行政庁(県、市など)から位置指定道路の認可を得ることで、建築基準法上の道路と認められ、接道義務を満たすことになります。位置指定道路の指定を受けるためには、「幅員4m以上、道路の形態や境界が明確、側溝等排水設備がある、通り抜け道路、隅切りを両側に設ける」などの要件に加えて、私道権利者全員の承諾が必要になります。また、条件を満せば、「43条2項道路※3」の許可を受けて建築する方法もあります。

 

※3 43条2項道路:本来は道路とみなされないが、建築審査会の同意を得て、特定行政庁が交通上・安全上・防火上および衛生上支障がないと認めたもの。都度審査する再建築不可の救済特例措置。

 

(4)敷地と道路の間に「水路」が通っている(道路に面していない)

土地と道路との間に水路がある場合、一般的に水路などは行政が管理しているため「水路部分は道路ではない」と判断されると、接道義務を満たしていないことになります。水路には、外観上見える開渠(かいきょ)だけでなく、地下に埋設して蓋がされて見えない暗渠(あんきょ)もあるので、公図上で「水」の表示があるような場合は注意が必要です。

 

<対策>

水路を管理する市町村より占用許可を受けて、出入り用の橋を架けることで、接道義務を満たすこともあります。ただし、水路占用で接道義務を満たすか否かの判断は、自治体によって異なるため注意が必要です。また、占用料も自治体によって有料と無料の場合があります。

 

以上が再建築不可となる主な要因と対策ですが、その他にも、法的には違法ではないものの事実上違法状態である「既存不適格建築物」や「高圧線下地」、「擁壁がある土地」で完了検査を受けていない場合なども、さまざまな建築上の制限を受けることになります。

終活で実施・検討しておくこと

終活として、次のことを実施・検討しておきましょう。

 

●「再建築不可」要因の有無を確認する。

●「再建築不可」となる要因がある場合、その要因を除去しておく。(前述の各対策を参照)

 

「再建築不可となる要因があり、かつ、その要因を除去できない」場合、そのまま残して相続が発生すると、その再建築不可の不動産は「負動産」となってしまいます。負動産になるなら、次の「所有権を手放す対策」も検討しなければなりません。

 

①共同売却

※隣地と共同売却できれば、再建築不可でない一体の土地として通常価格で売却が可能。

 

②民間業者による買取り

※共同売却が難しい場合、「訳あり不動産専門業者」に買い取ってもらう。

 

③国に引き取ってもらう

※民間買取業者の利用が不安な場合、建物が解体でき、他人に妨害されない通路を確保できるなら(接道していなくても可)、相続土地国庫帰属制度の利用を検討する。

 

 

平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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