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土地の境界確定を行っていない土地をどうすれば?
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【相談内容】現在、私は約160坪の青空駐車場を所有しています。この土地は、4年前に父から相続したものですが、もともと祖父の代で建てた文化住宅が老朽化したため、祖父から引き継いだ父が建物を取壊し、駐車場にしたものです。
先日、駐車場の契約書類を整理していた際に、土地の境界確定を行っていないことに気づきました。土地の形状は南西角地で、北側と東側に数軒の隣地と接しています。隣地の所有者とは、いずれも昔から面識はありますが、父と同世代なので年齢はいずれも80代後半です。
私としては、駐車場以外の活用を考えておらず、駐車場のまま子どもに遺そうと思っていますが、私が所有しているうちに、境界確定をしておいたほうがよいでしょうか?(58歳男性)
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⇒回答:面識のある隣地所有者が元気なうちに(認知症発症や相続発生の前に)、境界確定(道路明示含む)と地積更正登記を済ませておくことで、将来の「土地面積の減少」や「境界紛争」のリスクを回避でき、正確な面積を確定することができます。
解説:「境界紛争」がもたらす財産価値の棄損
遺産分割の結果、ある相続人が取得した財産に瑕疵がある(当然あるべき価値を有していない)とき、その損失分を、他の相続人全員が具体的相続分の割合で負担して、共同相続人間の衡平を図ることを目的とするのが、「共同相続人間の担保責任」制度です。
そして、遺産のなかで、特に瑕疵を含む可能性が高いのが不動産です。原則、不動産は四方を道路や他人に囲まれて接しているため、所有権が及ぶ範囲についてのお互いの主張が食い違うことで、紛争に発展することがあります。
不動産の価値を確定させるうえで、重要になるのが土地の境界確定です。通常は、土地を測量したあとに隣地や道路の所有者と現地立会いをして境界を確認し、合意できれば筆界確認書の取り交わしや道路明示を受けて境界が確定します。その後、法務局での地積更正登記手続きを経て公簿面積が実測面積に修正され、土地の面積も確定することになります。
本件相談の場合、隣地所有者と面識があり関係性が悪くないのであれば、早々に境界確定を済ませておくのが無難です。もし、隣地が売買や相続によって所有者が変わってしまうと、境界確定ができるか否かの不確定リスクが増すことになるからです。
土地の境界を巡る争いは、昔も今も無くなりません。資産価値が高い不動産は、境界線が数センチ違うだけでも、金額換算すると大きな違いになることが多いからです。遺産のなかに不動産が含まれる場合、土地の境界で揉める要因(境界未確定)を放置すると、相続後に相続人が隣地との境界紛争に巻き込まれたり、紛争の結果、土地面積が大きく減少してしまったりすることで、「当然あると思っていた価値が棄損する」ことになります。揉める火種を除去しておくには、相続前に土地の「境界確定・地積更正登記」は済ませておくことです。
土地の「境界」には「筆界」と「所有権界」がある
土地の境界とは、自分が所有する土地の範囲を示した線のことで、自分の土地と他人の土地との境目(隣地境界)や道路との境目(道路境界)のことをいいます。
境界には、「筆界」と「所有権界」があります。
筆界とは、登記された土地の境界のことで、「公法上の境界」と呼ばれます。明治時代の地租改正によって作成された土地台帳付属地図が公図となり、これが筆界になっています。
筆界は、法務局に備え付けられた公図や地積測量図で確認することができます。
所有権界とは、土地の所有者同士の所有権の範囲を示す線のことで、「私法上の境界」と呼ばれます。「ここまでが私の土地ですよ」というように、お互いが所有していると考える範囲と範囲の境目が所有権界になります。現地では、ブロック塀や境界標で示されています。
両者の違いは、筆界がお隣さん同士の話し合いで勝手に変更できないのに対して、所有権界は変更することができるということです。
土地境界で揉める原因は「筆界」と「所有権界」の不一致
本来、筆界と所有権界は一致しているところからスタートしています。前述のとおり、地租改正時に、各土地所有者の申告に基づいて所有権界を図面化したものが「地図・公図」になり、それが「公簿」となっているからです。
しかし、何らかの理由(過失など)で、地図・公図や地積測量図が正しく作成されていなかったり、お隣同士の話し合いで所有権界が変更されて新しくブロック塀を設置したにもかかわらず、分筆登記をしなかったりすると、筆界と所有権界の不一致が生じることになります。そして、不一致の状態を放置すると、売買や相続などで所有者が変わったときに、境界トラブルへと変貌することがあります。
土地境界で揉めたときの対処法
土地の境界は、お隣同士で立会ったうえで、平和的に決めることが最も望ましいのですが、それまでの経緯や考え方の相違によって、お互いの主張がかみ合わず、話し合いで解決しないこともあります。そこで、境界で揉めた場合の対処法として、次の2つの制度があります。
1. 筆界特定制度
筆界特定制度とは、2006(平成18)年に導入された制度です。法務局(筆界特定登記官)が、外部の専門家(土地家屋調査士など)で構成される筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定します。筆界が特定されるまでの時間は、半年から1年程度とされています。
留意点として、筆界特定制度による判断には既判力がないため、筆界特定の結果に納得できない場合は、その後、境界確定訴訟で争うことになります。ただし、境界確定訴訟に移行した場合でも、筆界特定の結果が考慮されるため、筆界特定制度による結果を判決が変更することは、かなり少ないとされています(変更の場合もあります)。
2. 境界確定訴訟
境界確定訴訟は、境界に関するお隣同士の争いを解決する訴訟手続きです。裁判所が当事者双方の主張を聞いたうえで、裁判所は各主張に拘束されることなく、客観的な視点で独自に境界を決定することになります。
判決が出るまでの期間は約2年程度とされていますが、境界が確実に決まることが境界確定訴訟のメリットといえます。
終活として行っておくこと
終活として、下記2点について実施するようにしましょう。
●境界未確定の土地がある場合、境界確定を済ませておく。
●隣地との境界確定がスムーズにできない場合、境界の揉めごとを相続人に残したくないのであれば、各制度(筆界特定制度など)を利用して、自分の代で決着をつけておく。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
