(※写真はイメージです/PIXTA)

せっかく相続した財産なら、だれしも有効活用したいと思うはずです。しかし、不動産の場合はとくに、あとから「瑕疵」が発覚するケースが多くあります。ここでは、不動産の「地上・上空・地下」に存在する具体的な瑕疵と、問題の解決策について見ていきましょう。平田康人氏(行政書士/宅地建物取引士)が解説します。

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不動産は「瑕疵を含む可能性が高い」遺産

遺産分割の結果、ある相続人が取得した財産に瑕疵がある(当然あるべき価値を有していない)とき、その損失分を、ほかの相続人全員が具体的相続分の割合で負担して、共同相続人間の衡平を図ることを目的とするのが、「共同相続人間の担保責任」制度です。

 

そして、遺産のなかでも、瑕疵を含む可能性がとくに高いのが不動産です。不動産に含まれる瑕疵の多くは現地で確認されるため、登記情報などの資料だけでは把握できず、不動産の現物そのものを注意深く洞察することしか、発見の糸口はありません。

 

不動産の現地を見るうえでポイントとなるのが、「完全所有権を阻害するものは無いか」という視点です。民法では、所有権について次のように規定しています。

 

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◆民法第206条(所有権の内容)

「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」

 

◆民法第207条(土地所有権の範囲)

「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」

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条文によると、所有権とは、物を全面的・排他的に支配する権利で、土地の所有権の範囲は、土地の地下や上空にも及ぶことになります。

 

つまり、当事者間で契約や合意がないのに、自分の所有権の範囲内に他人の所有物や権利が存在する場合、所有物を排他的に支配する権利は侵害され、完全所有権としての「当然あるべき価値を有していない」ことになります。

現地に潜む「さまざまな瑕疵」

不動産は、相隣関係の影響を常に受けるため、市街地でも郊外でも、物や権利による所有権侵害は、「地上・上空・地下」など至るところで発生します。建物の一部(屋根、ひさし、雨どいなど)や樹木の枝など、目に見えてわかりやすい隣地からの物の侵害(被越境)もあれば、つい見落としてしまうようなわかりにくい物の侵害や、権利による使用制限もあります。

 

「地上・上空・地下」に存在する具体的な瑕疵と終活で行う対策について見ていきましょう。

1.「地上」にある瑕疵

地上にある瑕疵としては、ブロック塀、隣地排水の流入、囲繞地(いにょうち)通行権などがあげられます。

 

(1)ブロック塀

 

①被越境

 

境界線に沿って設置されたブロック塀はどこにでもありますが、一見、隣地内に納まっているように見えて、よく見ると真っすぐ設置されていなかったり、境界線を越えて隣地側に反り傾いていたりすることがあります。

 

外構工事は職人による手作業なので、単に職人の力量による差であったり、老朽化や構造上の問題(鉄筋が十分に入っていない)であったり、要因がさまざまです。

 

<対策>

●原則、ブロック塀の積み直し又は越境部分の土地の買取りを隣地に請求する。積み直しや買取りが難しい場合、将来撤去する旨の覚書を締結する。

 

②倒壊リスク

 

ブロック塀がある場合は、越境のみならず、常に倒壊リスクに注意を払う必要があります。

 

ブロック塀には、高さ1.2m(目安:ブロック6段)を超える場合、水平方向へ間隔3.4m以下ごとに「控え壁」の設置が義務づけられています。控え壁とは、直角方向に突き出した補強用壁のことで、地震や風などブロック塀に加わる横方向の力に対して倒壊を防ぐ役割があります。しかし、ブロック塀が規定の高さを超えているのに控え壁が無かったり、あっても適切な間隔ごとに設置されていない現場を散見します。

 

また、石垣の上に設置されたブロック塀などは、下の石垣まで鉄筋が入らず安定性を欠いていたり、表面にひび割れや破損があれば、雨水の侵入から中の鉄筋が錆びて倒壊リスクを高めることになります。このようなブロック塀が隣地側にあれば、こちら側に倒壊する恐れがあり、逆に、こちら側にあれば隣地側への倒壊、道路沿いなら通行人に被害を与え損害賠償請求を受ける恐れがあります。

 

(出所)国土交通省

[図表]ブロック塀等の点検のチェックポイント
(出所)国土交通省

 

<対策>

●控え壁を新たに設置するか、控え壁が不要な高さ(1.2m以下)までブロックを除去する。

 

(2)隣地排水の流入

境界線付近に排水桝がある場合、その排水桝に隣地からの排水が流入していることがあります。この場合、他人の権利が敷地内に付着して、通常の所有権に基づく使用収益が妨げられているので、排水流入の状態を是正する必要があります。

 

<対策>

●原則、隣地排水管の引き直しなど流入状態の解消を隣地側に求める。

●引き直しが難しい場合、将来撤去する旨の覚書を締結する。

 

(3)囲繞地(いにょうち)通行権

囲繞地通行権とは、ほかの土地(囲繞地)に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者が、囲んでいる囲繞地を通行できる権利のことで、民法第210条では「公道に至るための他の土地の通行権」として定めています。

 

その特徴は、囲繞地通行権は法律により当然に発生し、囲繞地所有者の承諾は不要であることです。そのため、相続財産に囲繞地が含まれる場合、袋地所有者から囲繞地通行権を主張されると法的には拒否できず、通行する位置や通行する幅、通行料など「通行条件」を巡り、相続人と袋地所有者の間で揉める可能性があります。

 

<対策>

●囲繞地通行権や通行地役権について袋地所有者と協議し、合意書や通行地役権設定契約書の作成など、負担や制限の内容を明確にして相続人に引き継ぐ準備をしておく。

 

2.「上空」にある瑕疵

土地の所有権は、その上下に及びます。境界線上に立ち上空を見上げると、頻繁に存在するのが上空架線による被越境です。被越境物には、配電線や引込線、電話線(NTT)、通信配線(J:COMなど)、電柱上部のトランス、金属アームなどがあります。

 

<対策>

●電力会社など各社に連絡して移設してもらう。(※迅速に無料で対応してくれます)

 

3.「地中」にある瑕疵

地中にある瑕疵としては、建築廃材などの地中障害物、水道・ガス管などの地中越境物などがあげられます。

 

(1)建築廃材などの地中障害物

現在は駐車場や更地でも、以前その場所に建物が建っていた場合、地中を掘り起こしてみると地中埋設物が埋まっていることがあります。地中埋設物とは、コンクリートやアスファルトの破片、瓦などの建築廃材、コンクリート基礎、排水管、井戸、浄化槽などです。

 

ひと昔前は、従前建物の解体時に廃棄物が発生しても、処分費用を浮かせるために敷地外に撤去せず、そのまま埋め戻すような悪徳解体業者も少なからずいました。そのため、不動産売買で引渡前に試掘をすると、トラック数台分の撤去物が掘り出されることもあります。

相続した土地に地中埋設物が存在すると、相続後の売却時に相当な収去費用が発生したり、売買完了後に発覚すると契約不適合責任をめぐり、買主と紛争になる可能性があります。

 

<対策>

●地中埋設物の有無について次の調査をして、有る場合は収去しておく。

 

①地歴調査(昔の地図や航空写真、建築記録など)

②試掘調査(ピンポイントで数箇所を試掘する)

 

※試掘により、土地全体の地中埋設物の状況をある程度推測することもできます。ただし、地中はすべて掘ってみないとわからないのが鉄則のため、仮に試掘でなにも出土しなくても、あくまで推測でしかありません。

 

(2)水道・ガス管などの地中越境物

試掘した際に、隣地からの水道やガスの埋設管、隣地側ブロック塀の基礎部分の地中越境が判明することがあります。ブロック塀の基礎には、その形状によって「I型」、「逆T型」、「L型」などがありますが、「逆T型」の場合で地中越境が多く見られます。

 

<対策>

●原則、地中越境部分の解消(埋設管引き直し、基礎部分の斫りなど)を隣地側に請求する。

 

●地中越境の解消が物理的に難しい場合、将来撤去する旨の覚書を締結する。

 

 

平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター

 

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