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きっかけは、怪しい「土地買取」のDM
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【相談内容】
ある日、見知らぬ会社からDMが届きました。内容は、私が所有する地方の山林を買い取りますというものです。この山林は、私の父が昭和40年代に購入したもので、その後父の相続で母と私が相続し、母が亡くなった現在は私の単独所有となっています。山林の地積は約80坪で、固定資産税評価額も4,000円程度であったため、これまで山林の存在を気にしてもいませんでした。
DM発信元の会社を調べると、雑居ビルの一室にある会社で、何やら怪しい雰囲気を感じました。子どもに相談すると、“原野商法の二次被害に似ている”とのこと。なおさら気味が悪くなり、何とか山林を処分できないものかと現地へ確認に行きましたが、約50年間放置した山林はまるでジャングルのようで、とても売買や寄付が成立する土地とは思えません。こんな土地でも、国は引き取ってくれるのでしょうか?(59歳・男性)
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⇒回答:除外要件に該当しなければ、国は引き取らなければならないことになります(法第5条第1項、令第4条)。
解説:「引き取れない土地」に該当しなければOK
相続土地国庫帰属制度では、国が引き取る土地の要件を具体的に定めているのではなく、逆に「こんな土地は引き取れない」といった除外要件が定められています。この除外要件には、以下のように、申請時点で該当すれば門前払いとなる「却下要件」が5項目、申請後に国側の調査で不承認となる「不承認要件」が5項目、合計10項目があります。
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【却下要件】
(1)建物がある土地
(2)担保権や使用収益権が設定されている土地
(3)他人の利用が予定されている土地
(4)特定有害物質により土壌汚染されている土地
(5)境界が明らかでない土地、所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地
【不承認要件】
(1)一定の勾配・高さの崖があって、かつ、管理に過分な費用・労力がかかる土地
(2)土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
(3)土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
(4)隣接する土地の所有者等との訴訟によらなければ管理・処分ができない土地
(5)その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
※出典:法務省ホームページ『相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件』(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00461.html)
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本制度の立て付けとして、承認申請に係る土地が上記10項目に該当しない場合、国は「国庫帰属を承認しなければならない」と明確に定められています(法第5条第1項、令第4条)。
要件適否の判断基準も、法務省民事局長から法務局へ宛てた事務処理に関する通達によると、書面調査および実地調査をするにあたり、通常の管理に過分な費用や労力がかかる状況が「客観的・具体的にあるか否か」によって不承認要件の該当性を判断するとなっています。
例えば、崖地を申請した場合、崩落したら周囲に被害が及ぶと思われる土地でも、周囲に民家や道路等がなく、仮に崩壊しても周囲に影響を及ぼさない状況であれば、擁壁等の対策措置が必須とはいえず、管理コストが過分になるとは必ずしもいえないことになります。
「却下要件」と「不承認要件」の具体的な解釈
では、「却下要件」と「不承認要件」について、それぞれ具体的に見ていきましょう。
【却下要件】申請時点で該当すれば即却下(門前払い)される項目
(1)建物がある土地
⇒原則、申請前の解体撤去が必要です。ただし、申請先法務局の判断によっては、申請後、承認までに解体すればよい場合もあります。
(2)担保権や使用収益権が設定されている土地
⇒抵当権等の担保権、差押、地上権や地役権、賃借権等や農地台帳上の使用収益権、森林経営管理法上の経営管理権などですが、登記記録や各台帳等関係資料に記載がなく、存在を疑うような事情がなければ申請は可能です。また、電柱や電線が申請地にある場合でも、一部に留まっている場合は申請できます。
(3)他人の利用が予定されている土地
⇒通路・墓地・境内地・水路を指します。特に、地目が公衆用道路や水道用地などになっている土地で、現に地元住民が通路や水路として利用している場合は申請できません。
(4)特定有害物質により土壌汚染されている土地
⇒土壌汚染対策法上の「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」に該当しておらず、現地の土に変色や臭気がなければ申請可能です。
(5)境界が明らかでない土地、所有権の存否や帰属、範囲について争いがある土地
⇒本制度の趣旨では、境界確定までは求めておらず、自分が考える境界を明確に示して申請すればよいとのことです。ただし、申請後、法務局から申請地のすべての隣地所有者に対し、申請書に添付された境界に関する資料(すべての境界標を写した写真など)を同封のうえ、「申請者からあなたの土地との境界はココだという写真が提出されているが、写真どおりで間違いないか」という主旨の確認書を送ります。
隣地所有者のなかには、「境界なんてどこでもいいよ」と言う人もいれば、「勝手に境界を決めやがって!」と怒る人もいます。「どうせ不要な土地だから、隣地が文句を言ってきたら境界線はいくらでも譲ればいいのでは」と述べる専門家もいますが、人の感情はそんな単純なものではありません。最初のボタンの掛け違いで不要な揉めごとに発展する可能性は多分にあります。
境界に異議を唱えた隣地所有者との再調整を法務局から促されてから2カ月を期限とし、その間に双方の感情のもつれに収拾がつかなくなる(話し合っても合意できない)と、本申請は不承認となります。それらを懸念して、最初から隣地への対応も含めて専門家に依頼する人も多くいます。
【不承認要件】申請後に法務局による調査で不承認となる項目
(1)一定の勾配・高さの崖があって、かつ、管理に過分な費用・労力がかかる土地
⇒勾配30度以上、かつ、高さ5メートル以上の崖がある土地を指します。崖があるだけでは不承認要件に該当しませんが、近くに道路や民家、線路などがあり、崩れると人身事故等を引き起こす可能性が「具体的、かつ、客観的」に認められる場合に不承認となります。
(2)土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
⇒病害虫対策に手間がかかる果樹園の樹木、倒木しそうな枯れた樹木、生命力が強く他の樹木の日照を妨げる竹、廃屋、放置車両などを指します。これらの有体物は、伐採または撤去する必要があります。特に竹は厄介で伐採のみならず、伐根までしなければ不承認となります。
(3)土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
⇒産業廃棄物、建築資材ガラ、建物基礎、水道管、井戸などが地中に存在すると不承認になります。ただし、国による確認方法は、実際に掘削するわけではなく、過去の用途履歴等で行い、特に疑わしい事情が認められなければ詳細な調査まではしないとされています。
(4)隣接する土地の所有者等との訴訟によらなければ管理・処分ができない土地
⇒主に次の3つになります。第一は、囲繞地通行権を妨げられている場合です。道路に通じていない土地(袋地)は、その土地を囲む土地(囲繞地)を通行できます(民法第210条)が、その通行を妨害する隣地所有者がいるケース。第二は、申請地に不法占拠者がいたり、隣地から申請地側に定期的な排水流入があったり、樹木の越境があるケース。第三は、申請地が別荘地の場合、別荘地管理組合から管理費の請求がされるようなケースです。
これらの状況が「現にある場合」、是正できなければ不承認となります。
(5)その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
⇒主に次の4つになります。第一は、土砂の崩壊防止の保護工事が必要な場合や、陥没等土地に欠陥がある場合です。第二は、鳥獣や病害虫の被害が現に生じている場合。スズメバチの巣なども撤去対象になります。
第三は、山林の場合で適切な管理がされていないケース。具体的には、市町村等の森林整備計画に定められた間伐や造林がされておらず放置された状態の山林が該当します。
第四は、農地の場合で土地改良区の賦課金が徴収されているケース。賦課金は、水利施設の利用や維持管理の経費に充てられますが、その金銭債務は所有者が変わると承継されるためです。下水道事業の受益者負担金なども同様です。
これらの状況が「現にある場合」、是正や賦課金等の清算ができなければ不承認となります。
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【法令等の表記】
・法(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律)
・令(相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律施行令)
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平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
宅地建物取引士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター