事前対策と対処法
アパート経営において、退去を抑制するにはどのような方法があるのでしょうか。ここでは、いまからすべき事前対策と、トラブルが実際に発生したときの対処方法を解説します。
1.メンテナンスや清掃に関するトラブルについて
アパートの設備の維持管理には、適宜費用をかけて対応するしかありません。しかし、予算には限りがあり、いつなにが壊れるかなど予想することも不可能非常に困難です。
そこで事前対策として、設備の維持管理には中長期の計画を立てておくことが重要です。アパート経営では「故障したから修理する」と考える人も多いでしょう。しかし、耐用年数を超過した時期に設備を一斉交換する計画を立てておけば、ボリュームディスカウントが働き、結果的にトータルコストを安価に抑えられます。特に、緊急性が高く費用も高額になりがちな給湯器などは、故障する前に交換しておくことで二次トラブルも防止でき、入居者の満足度も向上します。
清掃面では、清掃の日時を入居者にわかるように掲示するだけでも効果的です。人知れず清掃してもよいですが、いつ・誰が・どの箇所を掃除したか、このような情報を入居者が目にするだけで、入居者がアパートを綺麗に使おうという意識は高まります。
2.管理会社に関するトラブルについて
高い頻度で退去が発生しており、その原因が管理会社にあるときは、順を追って対応することで解決できます。対応フローを以下にまとめました。
管理会社の担当者に是正を依頼する
どの業務に問題があるかを明確にして、担当者に是正を依頼します。正論をいうだけでは担当者が委縮してしまい、良好な関係は築けないので、丁寧な説明を心がけましょう。
担当者の上司に是正を依頼する
担当者に依頼しても何も変わらないときは、上司と面談をしましょう。直属の上司と面識を持つことで、会社として責任感をもって対応してもらえる可能性が高くなるからです。
担当者を変更してもらう
品質に改善がみられないときは、担当者の変更を申し出ます。上司が直接担当してくれたり、新しい担当者を選任してくれたりと、さまざまなパターンが考えられます。
管理会社を変更する
思い切って管理会社を変更することも効果的です。管理会社が変わったことで、アパートの経営状況が改善されることも珍しくありません。
ほとんどのアパート所有者は、その管理会社を選んだ明確な理由がありません。アパートに近いから、昔からお世話になっていてアパートのことをよく知っているから、といった曖昧な理由です。しかし、自分の大切な資産運用を任せる管理会社を、アパートの距離や人間関係だけで選ぶのはリスクがあります。
事前対策として、管理会社を選ぶ際は、複数の会社と面談するのがよいでしょう。複数の会社を比較することで、よりよい管理会社と出会える可能性が高くなるからです。管理会社選びは、時間をかけて慎重に行うことが重要です。
ただし、アパート購入時にローンを組んでいる場合は、借入金融機関にて管理会社の指定があるケースも多いため、管理会社を変更する場合は、必ず事前に借入金融機関へ相談のうえ、行いましょう。
3.モラルクレームに関するトラブルについて
モラルクレームは所有者の耳に入ることが少ないため、適切な情報収集をするためにアンケートの活用が効果的です。複数の入居者から同じ内容のリクエストが届いたら、モラルクレームと判断してよいでしょう。
モラルクレームの発生源を特定したら、順序立てて対応を進めます。全戸に注意喚起の文書を投函することから始め、なかなか解決しなければクレーム発生源である入居者に直接ヒアリングします。1対1の指示・指導を経て退去勧告に近い警告を発信するなど、毅然とした対応が必要です。
また、モラルクレームの対応の進捗状況を入居者に共有することも忘れてはいけません。入居者は情報を共有してもらうことで安心感を得ることができ、退去しようと思う可能性が低くなるからです。
モラルクレームの事前防止策としては、入居審査および契約内容が有効です。共同生活に関するルールやマナーに加え、威圧的な態度やカスタマーハラスメントを盛り込み事前に説明しておくことで、一定の抑止力を期待できます。
入居者が住み続けたくなるようなアパートを経営しよう
退去の多いアパートでは、収益が悪化し評判が下がり、入居付けが困難になるという悪循環が起こります。施設や設備の状態・環境・管理体制など、あらゆる角度から原因を分析し、改善し続けることが大事です。
入居者の満足度を上げることで、アパート経営を高いレベルで安定させ、退去頻度を抑えられます。できることから少しずつ始めてみてください。
三澤 智史
一級建築士

